「じゃ、俺らこっちだからお前ら気をつけて帰れよ。」

そう言って翔は絢音の手を繋ぎ別方向へ帰って行った。

「おう!んじゃ途中まで一緒に帰りますか!」

俺たちは途中まで同じ方向だが

結局は3人バラバラになる。

そうなると凛が心配だからいつも俺が家まで送っていた。

「凛ちゃん、あそこの十字路でバイバイだけど、家まで送ってこうか?1人だと危ねぇし。」

すると凛は静かに首を横に振った。

「1人じゃないよ?ちゃんとゆーくんいるから。ね?ゆーくん送ってくれるもんね?」

俺はコクっと頷いた。

「あ、そ、そっか!こいついるもんな!変なこと言ってごめん!」

あはは…と竜は苦笑いした。

「じゃね!竜くん!バイバイ!」

「おう!気をつけて帰れよ!」

俺は、凛の手を繋いで歩き出した。

少し進んで振り返ると竜が心配そうに凛を見つめていた。

そりゃ心配だよな。

何かあっても俺は…もう…なにもしてやれない。

見てることしか出来ねぇんだからさ。

俺は前を向き凛の家へ急いだ。

「ねぇ、ゆーくん。」

「ん?」

「夏休み入ったらさ、私のお家で一緒に勉強会しようよ!」

「いいけど、凛って筆記試験ねぇよな?」

「うん。AO入試でだすから私はいらない。
いらないんだけど…ちょっと期末の点数がさ、悪くって、卒業出来ないのは困るし、教えて欲しいなって。」

「なるほどな。いいよ。やろうぜ。」

「やったー!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。

ほんと、可愛いやつ。

「終業式の次の日に私のお家に来てね!」

「了解。」

そんな話をしているうちに凛の家に着いた。

「ゆーくん、ありがとう!またね!」

「おう!またな。」

パタリと扉が閉まるのを確認してから俺は歩き出した。

終業式の次の日…か。

できんのかな?勉強会。

存在してっかな、俺。

ははっ…と乾いた笑いが漏れる。

また1つ凛との楽しみが増えた。

それと同時に不安もまた1つ増える。

この約束をした次の日から俺は勉強会を迎えられるのかドキドキしながら毎日を過ごした。

だが、俺の不安とは裏腹に毎日穏やかに何事もなく過ぎていった。

俺自身も、毎日ちゃんと存在していた。

案外長くいられるものなんだなぁと、

どこか他人事のように考えてしまう自分もいた。

そして、このままずっと凛の隣で笑っていられたらなんて思ってしまった。

ダメなことだと分かってはいる。

だって俺は…俺はもう…。

凛が全てに気づいたら、気づいてしまったら、

この幸せは全て終わる。

そんないつ終わるかも分からない日々の中で、

竜と翔は俺のところにやってきて楽しそうに話してくれる。

雨乃は呆れているが、なんだかんだ言っても話しかけてくれる。

3人とも俺たちのいつ終わるかも分からない幸せに付き合ってくれていた。

そんな日々を繰り返しているうちに3週間が過ぎあっという間に終業式になった。

-キーンコーンカーコン-

「えー、それでは明日から高校最後の夏休みです。勉強もしつつ楽しんで過ごしてくださいね。怪我のないようお願いします。では、さようなら。」

先生から締めの挨拶を頂き教室を後にした。

「明日から夏休み!よっしゃ!」

「竜はしゃぎすぎだよ。」

大はしゃぎな竜とは対照的に冷静に制する翔。

「いや、なんでそんな冷静なんだよ!夏休みだぞ!?嬉しくねぇの!?」

「嬉しいよ?でも、俺と凛ちゃんはAOの入試のエントリーシート出しに行かなきゃだからさ、忙しんだよ。」

「あーなるほどな。専門学校行くやつも大変なんだな。」

「当たり前だろ。楽なことなんてないよ。」

「だよなぁ。てか、雨乃は?あいつは別の学校?」

「絢…」

「私は就活組だよ〜。」

凛たちのクラスのHRが終わったのだろう。

翔が言葉を発したと同時ぐらいに、絢音がひょっこりと顔を出した。

「え、なに、お前就職すんの?」

竜は驚いた顔をしていた。

俺も少し驚いた。

というのも雨乃は美容に詳しくメイクやネイル、

ヘアセットが得意なた俺たちは勝手に

絢音は凛と同じ専門学校に行くと思っていたからだ。

「なーによ。文句あんの?」

「いや、別に文句はねぇよ。ただお前メイクとかヘアセットとか得意だからそっちの専門行くのかとおもってたからさ。」

「なるほどねー。行かない行かない!それは趣味であって資格とって職にしたい訳じゃないもん。」

「そうなのか。んじゃま、お互い就活頑張りますか!」

「はいはい。翔と凛も頑張りなよ!てことで、帰るよ!」

2人は、はーいと返事をして歩き出した。

そんな4人の会話を聞きながら俺は1人、

あぁ、みんなちゃんと前に進んでんだな、すげぇな

なんて思っていた。

もし卒業出来るなら、就活組だったんだろうな。

俺は竜と同じでバイクなどをいじるのが好きだったから、整備工場とかで働きたかったんだよな。

それか、サラリーマンをしてみたかったな。

ま、営業には向いてねぇかもだけど。

なんて、みんながワイワイ話している中で1人考えていた。

そして、全員の分かれ道に着いた時、

竜が話をやめ、雨乃と凛に問いかけた。

「お前ら2人は、お盆って墓参り一緒にくんの?どうする?」

俺はドキッとし凛の方をちらっと見た。

「お墓参り?誰か亡くなったの?えっと…私と絢ちゃんが知ってる人?」

凛は不思議そうに竜に尋ねた。

その隣で絢音は気まずそうな顔をし、

「まぁ…こんな感じだし私と凛はパスで。来年は行けたら私たちも行くよ。」

と告げた。

その言葉を聞きますます分からないという顔をする凛。

「あはは…だよな。翔と2人で行ってくるわ。なんか伝えて欲しいことある?あ、凛ちゃん。亡くなったのは俺の知人だよ。仲良かったんだけど今年の春にバイクで事故って死んじゃったんだ。だから、凛ちゃんは知らない人かな。」

竜は少し困った顔でそう伝えた。

そうなんだ…。と凛は少し悲しそうな顔をした。

「うーん。特にないけど…あ、一つだけ!いつ何があるか分かんないし、そのうち忘れられっかもだから今の幸せを噛み締めとけよって、伝えといて。」

「了解!」

絢音はそれだけ言うと翔の手を繋ぎ、じゃぁね〜と帰って行った。

竜はくるっとこちらをむいた。

「えっと…凛ちゃんは、優真と帰る…感じだよな?」

「うん!そうだよ!」

「そ、そうだよな!んじゃーな!2人とも気をつけて帰れよ!」

俺たちは手を振り見送った。

「よし!ゆーくん私たちも帰ろっか!」

「おう。」

手を繋ぎゆっくりと歩き出した。

「仲良かった人とか大切な人が居なくなるのってすっごく悲しいよね。」

不意に凛が呟いた。

「そうだな。」

「ねぇ?ゆーくんも私が居なくなったら悲しい?私はね、ゆーくんが死んじゃったら悲しいよ。」

「俺だってお前が死んだら悲しいに決まってんだろ。」

「そっか!ふふ。良かった!」

そう言って凛は笑った。

だから、凛。お前は何が起きたって笑って元気に生きててくれよ。

「ゆーくん、ずっと一緒にいてね。大好きだよ。」

「あぁ。俺も大好きだ。」

「ありがとう。じゃね!バイバイ!」

「バイバイ。」

俺は凛が入っていくのを見届けて歩き出した。

凛に大嘘をついてしまった。

大好きなのは本当だ。

だが、ずっと一緒には居られない。

どのタイミングかなんて俺には分からない。

けど、終わりが来る。

けれど、凛の笑顔を見ると言えない。

悲しませたくなくて嘘に嘘を重ねてしまう。

いや、本当は俺が離れたくなくて忘れて欲しくなくて、

ズルズルとここまで来てしまったのだけれど。

そんな嘘を重ねた1日が今日もまた終わっていく。

そして、嘘の1日がまた始まろうとしていた。