私も27歳だし、お付き合いするとなれば結婚を意識しないのは難しい。万が一岩泉君にその気があったとしても、彼の環境がそれを許すだろうか。

 私の父は大手で部長職に就いていて、それなりに恵まれた環境で育ててもらったが、一般的な家庭の域を出ないレベルだと思う。私自身も学歴が高いだけで、突出した何かがあるわけではない。

 どう考えても未来がない。

 学生の時ならこの幸運に飛び付いていたかもしれないが、適齢期を迎えている今、遅かれ早かれ終わりがくるとわかっている恋愛に、そう易々と踏み切れる程の経験や度胸はない。

 うーーん‥‥例え結婚が先送りになったとしても、目の前にある幸せを享受すべきなのかな?

 家族の反対、彼を狙う女性達からの攻撃‥‥幸せな時間なんてそう長くはないのかも。心配すべきは時間のロスじゃなく、岩泉誠太郎という最上級を知ってしまうことで、その後の判断基準がバグることなのかもしれない。

 実際、岩泉君を好きになってから他の男性に魅力を感じたことがなかった気がする。今後、岩泉君より好きだと思える人に出会えるのだろうか?

 あれ?もしかして、既に基準がバグってる?そしたら私、一生結婚できなくない?

 いやいやいや、大丈夫。まだ大丈夫でしょ?私はまだ27歳、諦めるには早過ぎる。

 いっそのこと岩泉君と付き合うことで辛い経験をすれば、彼への想いに踏ん切りがつくのかも?

 いや、ダメージが大き過ぎると回復が長引いて婚期を逃すのでは?どっちみち婚期を逃すなら、思いきって飛び込んでしまった方がいいのか?いやいや、だったらダメージのない方がいいじゃないか。でも今のペースで岩泉君が迫ってきたら、付き合ってなくても彼の相手が私だと知られ、攻撃されるのでは?どうせ攻撃されるなら付き合った方が‥‥

 駄目だ!全く正解に辿り着けない!

 結局考えがまとまらないまま最終日を迎えた私は、寝不足の回らない頭でなんとか全ての日程をこなしきった。

 仕事を無事に終えたことで緊張の糸が切れたらしい。問題は何も解決してないのに、飛行機に乗った直後に私の記憶は途絶え、目が覚めた時にはトランジットでタイの空港に到着していた。

 再搭乗まで半日以上あり、岩泉君は当たり前のように私を捕獲。その間延々と『恋人になって欲しい』と懇願され、動揺と混乱でわけがわからなくなった私は、最終的にそれを受け入れてしまったのだ。