「可能かどうかわからないので、あくまで仮定の話になりますが‥‥」

 半ば絶望しかけてる俺を気遣うように、彼女が優しく話しかけてくれる。やはり女神だな。

「結婚を決める前に、一度一緒に生活してみませんか?」

「‥‥‥‥え?」

 あれ?聞き間違えたかな?

「一応両親の許可が必要ですが、もういい大人なので多分問題ないと思うんです。岩泉君はどうですか?逆に結婚より難しかったりするんでしょうか?」

 一緒に生活って‥‥同棲ってことなのか?え?彼女と同棲?何それ、そんなことが許されていいのか?嘘だろ?8年も我慢し続けたご褒美?ご褒美なのか!?

「あー‥‥誠太郎、完全にバグったわ。多分問題ないと思うけど、椿ちゃんは本当にそれで大丈夫なの?」

「え?ああ、結婚してからやっぱり離婚てなるよりいいと思う。今のままだと会える時間も限られるし、どういう結果になるかはわからないけど、一緒に暮らせばわりとすぐに結論が出せるかなって。下手に外で会うより、岩泉君との関係を人に知られるリスクも低いでしょ?」

「確かにマンションへの出入りだけ気をつけて外での接触を避ければ、ほぼばれないかもね。でも、まさか椿ちゃんが同棲を提案するなんて思ってもみなかったから、本当盲点だったわ。一時はどうなることかと思ったけど、この調子なら瞬殺で結婚が決まりそうだね?」

「ど、同棲‥‥そうか、そうだよね。でも、どうなるかはまだ本当わからないよ?」

「でもさ、今日だけでだいぶ誠太郎に慣れたんじゃない?敬語は抜けなかったけど、わりと普通に話してたじゃん。必要だったら慣れるって言ってたの、あれ本当だったね」

「あー言ってた言ってた、なんか懐かしいね」

「あの頃、誠太郎の恋が実るまでにここまで時間がかかるとは思ってもみなかったよ。こいつに任せてたらまた無駄に時間がかかるから、バグってる間に俺達で色々決めた方がいいかも」

 そんなこんなで、俺が正気を失ってる間に彼女と啓介で詳細が詰められ、俺は黙ってそれに従うことにした。

 翌日、彼女のご両親に結婚を視野に入れた同棲の許可をもらいに行き、その日の内に俺の住むマンションに荷物を移動、あっという間に彼女との生活が始まった。

 一週間前の俺達は、同級生とも言い難い、ただの上司と部下でしかなかった。それが今は恋人で、一緒に暮らしている。更にその先には結婚も‥‥幸せ過ぎて、おかしくなりそうだ。