ペトロニラは国外の山奥の修道院に送られ、閉鎖的で禁欲的な生活を強いられていた。毎日つまらない祈りばかりさせられ、掃除や洗濯、料理などの家事をして過ごしている。
 修道院には贅沢な食事も、綺麗なドレスも、甘やかしてくれる家族もいない。身の回りのことをしてくれる召使いも。

(早く……お姉様のところに行かなきゃ。そして、プレイヤーの座を取り戻すの。早く、早く……!)

 いつも修道院から逃げ出すことばかり考えている。ルサレテの元に行き、もう一度一緒に高いところから落ちれば、自分が乙女ゲーム転生プログラムの被験者に戻れるはずだ。そうなれば、ゲームの力を借りて、攻略対象たちの心もすぐに取り戻せる。

 ずっとゲームのポイント貯めと攻略だけに人生を捧げてきた。夢中になり、依存していた。イケメンに愛し尽くされる自分の理想通りの世界を作りたくて。
 それなのに、今こうして修道院まで追いやられたのは全部……ルサレテのせいだ。彼女が、プレイヤーの座を奪ったから。

 ペトロニラは祈りの途中で礼拝堂から抜け出して、建物の外へ走った。

「シスター! またペトロニラが脱走しようとしています!」
「追いかけなさい」
「はい!」

 シスターの指示で、修道女たちがペトロニラを追いかける。一方のペトロニラは、捕まらないように山の下へ向かって走り続けた。
 すると、道の脇に薄汚れた白い猫が隠れているのを見つけた。ペトロニラは立ち止まり、目を見開く。