意地を張っている?
 その言葉に、ルサレテは思わず眉をひそめる。ペトロニラの一件で、ルサレテと家族の間にわだかまりができてしまったのは、ルサレテが意地を張っているとかそういう問題ではない。心に負った傷がまだ癒えていないのだ。
 しばらく両親から離れていたいという意思は、彼らも理解してくれているので、ジェイデンの言うことは見当違いだ。

(そんなことを言うために、わざわざ学園まで押しかけて来たというの? こんな朝早くに)

 ルサレテが一方的に両親に突き放して、困らせているかのような口ぶりで。
 ジェイデンが何を考えているのか分からない。

「家には戻りません。これは、私と両親の問題なので、ジェイデン様にはなんの関係もない話です。そのようなことをおっしゃるために来たなら、帰ってください」

 これから授業があるので失礼します、と踵を返そうとすれば、彼はとんでもないことを言った。

「――俺と……やり直そう。ルサレテ」
「…………はい?」

 一瞬耳を疑い、思わず振り返る。
 けれどすぐに、ジェイデンが寄りを戻そうとしてきた真意は想像できた。

 ジェイデンは勢力の小さな伯爵家の四男だ。爵位は一番上の兄が継ぐと決まっており、その下の弟たちは家を出て自分で生計を立てていかなければならない。
 次男と三男は幼少のころから鍛錬を重ねて騎士団に入った。
 そして、ジェイデンはナーウェル侯爵家の婿養子となり侯爵家を支えていく――はずだった。