変に対抗意識を燃やすルサレテに、彼は苦笑した。ルサレテはパスタをひと口分フォークに巻き付けて、彼の口元に差し出す。

「美味しいですよ。トマトパスタ」
「ありがとう。いただくよ」

 2人が食べさせ合いながら仲睦まじく食事を楽しむ様子を見た周りの生徒たちが、「2人の関係は何?」とひそひそ噂話している。

「体調、随分良さそうですね」
「うん。絶好調だよ。つい最近まで……正直に言うと体調がいい日は全くなかったんだ。でも今は咳もぴたりと止まってね。担当医も俺の回復は――奇跡みたいなものだっておっしゃっていたよ」
「奇跡……」

 ルサレテだけはその奇跡の理由を知っている。それは、ルサレテが被験者として乙女ゲームをクリアをしたことで得た、妖精シャロの不思議な治癒の力だ。けれど、彼にはこう伝える。

「きっと、ロアン様がずっと頑張ってきたからですよ」

 すると、ロアンはフォークを置き、物言いたげな表情でこちらを見つめたが、何も言わなかった。

 ルサレテは前世、病気で若くして死んだ。だから、こうして健康でいて、美味しいものが食べられて、好きな人と話せることがどんなに特別なことか身に染みて分かる。
 前世の記憶は、ゲームの開始時に特典としてシャロから与えられたものだったが、ささやかな日常の尊さも思い出させてくれたのだった。