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 その後。ロアンの病気はすっかり完治した。今まではどこか憂いた雰囲気があり、いつか突然消えてしまうのではないかと心配するような儚さなあったが、みるみる顔色が良くなり、同時に表情も明るくなっていった。
 近寄りがたさが軽減されたのか、最近は令嬢たちがロアンに話しかけているところを頻繁に見る。

(ロアン様……また令嬢たちに囲まれているわね)

 学園の外の道で、ロアンを見かける。彼は複数の令嬢たちと話していた。
 他の令嬢たちと仲良くするのは妬けてしまうが、以前よりずっと元気な様子で、内心ほっとする。

「ロアン様っ! 今からわたくしと一緒に昼食を食べませんか?」
「ロアン様のためにお菓子を焼いて来ました。私と芝生広場でゆっくりしましょう?」
「いえ、私とお散歩に行ってくださいっ!」

 令嬢たちは自分こそロアンと過ごすのだと、表面上は愛想笑いを浮かべながら、バチバチと争っていた。
 彼はそれらの誘いを「先約があるからごめんね」とあっさり跳ね除けて、まっすぐとこちらに走って来た。

「お待たせ、ルサレテ。さ、行こうか」
「…………」

 食堂にひとりで向かって歩いていたルサレテは半眼を向ける。

「ロアン様と約束した覚えはありませんが……」
「まぁそう固いこと言わないで。なんでも好きなものを奢るからさ」

 太陽よりも眩しい笑顔を湛えた彼は、ルサレテの手を取って歩き出した。令嬢たちの誘いをかわすためにいいように使われたような気もするが、彼の笑顔に絆されてしまう自分がいる。
 けれど実際、ロアンの目には、他のどの令嬢でもなく、ルサレテのことしか映っていないようで。
 今のルサレテは好感度メーターは見えないのに、数値100まで満たされたメーターの幻が一瞬見えたような気がした。

 学園内にある食堂で、ロアンは2人前の料理を注文する。以前まではダイエット中の女子より少食だったのに、よく食べるようになったことで、健康的な体型を取り戻しつつある。

「ルサレテ、食べる量が少ないんじゃないかな? 君はもっと食べた方がいい」
「ふ。ロアン様にそんなことを言われる日が来るとは思いませんでしたよ。すみません、追加の注文をお願いします」

 ルサレテは店員を呼び、ロアンを上回る量のメニューを注文した。テーブルの上にずらりと並ぶ食事。ステーキにパスタ、サラダ、スープやパンなど、ひとりで食べるには明らかに多い。ルサレテはしたり顔で微笑む。

「ロアン様こそ、まだまだ食が細いのでは?」
「……君って案外、負けず嫌いなんだね。俺はまだ病み上がりなんだけど」