ルサレテはにこりと笑顔を浮かべて言った。

「もしいつか……ロアン様を失って傷つくことになったとしても、私はその傷ごと愛せる自信があります。だってそれは、ロアン様の傍にいて幸せだった証だから」

 先のことはロアンだけではなく、誰にも分からない。たった今空から隕石が降って来るかもしれないし、明日事故に遭うかもしれない。だから本当に大切なのは、先のことを心配するのではなく、今このときを大切に味わい、めいいっぱい楽しむことだと伝える。

「好きです。ロアン様のことが、好きです。病気があるからなんだっていうんですか。一緒にいたいと思う気持ち以外に、大事なことはありませ――わっ!?」

 次の瞬間、ロアンの腕の中にいた。
 彼の体温と胸の鼓動が伝わってきて、脈動が加速する。ロアンは優しくルサレテのことを包み込みながら、耳元で囁いた。

「せっかく手放してあげようと思ったのに。後悔しても知らないよ」
「後悔なんてしません」
「……俺も君が好きだよ。先が長くなくても、最後まで、離れずにそばにいてほしい」
「はい……っ。喜んで」

 そう答えたとき、ルサレテは本気で覚悟をしていた。好感度メーターが100にならなくて、病気を治すことができなかったとしても一緒にいようと。彼との別れを想像して目頭が熱くなる。
 彼の背中に手を回し、力を込めたそのときだった。ロアンの好感度メーターが100を示した。
 空中ディスプレイの中からシャロがあらわれて、「クリアおめでとう」とクラッカーを鳴らす。しかし、ロアンにはシャロの姿は見えていない。

「いやあ、最後まで楽しく観察させてもらったヨ。以上でボクたち妖精族の検証はおしまイ。約束通り、彼の病気を治してあげヨウ!」

 こくんと頷くと、シャロは光の粒を放出しながらくるくるとロアンの周りを旋回した。

「これで大丈夫! 少しずつ体力も戻って元気になるヨ! ――ボクからのサービスで、ふたりが健やかに幸せに過ごせるように妖精の加護もあげちゃウ!」

 ぱちんとシャロが指を鳴らせば、部屋中が光に満たされ、ルサレテの頭上にも暖かな光の粒が降り注いだ。不思議な力のある妖精の加護だ。きっと幸せに導いてくれるような気がする。
 一方、体の変化に気づいたロアンは、腕を動かしたり手のひらをかざしたりして不思議そうに言う。

「不思議だ。なんだか急に体が楽になった。……君と両想いになれて、力が湧いたのかな?」
「ふふ。そうかもしれませんね」

 ……なんて答えて微笑んだあと、もう一度ふたりで抱き合う。
 そのすぐそばを浮遊しながら、シャロが目配せしていた。