あのときのことが脳裏に過り、背中に冷たいものが流れた。
 すると、ロアンが意識を取り戻したルサレテに気づく。

「あ、お姉さんも起きたみたいだよ」

 彼は一番にこちらに寄って来て、身体の具合はどうかと心配してくれた。満身創痍だと答えるより先に、ひとつ気になるものを見つけた。見つけた……と言うより、見えている。

「……好感度、メーター……? 何これ」

 ロアンの頭上に、ハートの形をした測定器が見えていた。その数値は20。彼だけではない。ルイにエリオット、サイラスの頭の上に『好感度メーター』なるものが浮かんでいる。それぞれ、数値は0を示していた。

「どこか悪いの?」
「あ、はい。何か、幻覚が見えるみたいで……。頭を打ったのかしら」

 瞼を擦ってみるが、やはりロアンの頭の上には妙なものが浮いていて。
 ルサレテが好感度メーターの話をしたそのとき、ペトロニラが頭を抱え、悲鳴を上げた。

「いやああっ、嘘よ……そんなはずない。お姉様にプレイヤーが移ったってこと!? それじゃあ私のここまでの努力はどうなるのよ……!?」

 彼女は顔面蒼白で、何かに絶望したような、そんな様子だった。

「ペトロニラ。そのように動揺して、どうしたというのだ?」
「見えないの。何も……。少し前までは見えていたメーターが……ううっ」

 ルイが心配そうに声をかけると、遂にペトロニラはぐすぐす泣き始めた。まるで、わがままを言う子どものように。

「突然泣いたりして、どうなさったのです? 力になりたくても、説明してくださらなければ……私たちは何もできません」

 エリオットが聞くとペトロニラは泣き止み、こちらをそっと指差した。

「お姉様が……私のことを階段から突き落としたんです。私が持っているものを全部、奪おうって……っ」
「なんですって……!?」

 彼女の証言にエリオットは驚愕し、他の男たちもざわめいた。しかし、ルサレテの驚きが一番大きいだろう。なぜなら、突き落とそうとしたのはペトロニラの方なのに、その罪を姉に擦り付けようとしているのだから。

「誕生日会のあとの夜……お姉様が言ったんです。ペトロニラは何でも持っていてずるい。だから、いなくなればいい――と」

 彼女は、ルサレテに突き落とされそうになった瞬間に、ルサレテの腕を反射的に掴んで一緒に落ちたのだと、実際と逆の状況を説明した。
 取り巻き令息たちがルサレテを見る瞳が懐疑心に染まっていく。そのとき、彼らの好感度メーターの数字が下がり始めた。

 -1、-2、-3……。

 数字の変化に気づいたあと、ルサレテは弁解する。