「そのときは君のことを誤解していたんだ。反省してる」
「別に、過去のことを責めている訳ではないですよ」

 ペトロニラと親しくしていたロアンはずっと、ルサレテが彼女のことをいじめていると思っていたのだから。嫌うのも無理のないことだ。
 ルサレテはその場にしゃがみ、両手を差し出す。するとカエルがぴょんっと飛び乗って来たので、それを人の通りのない草むらに逃がした。人に踏まれたりしたら可哀想だ。

「本当、よく触れるよね」
「私は虫全然平気なので」
「エリオットだったら、発狂するかも。生き物の中でも一番カエルが苦手だって言ってたから」
「ふ。では卒倒するかもしれないですね」

 彼は大の虫嫌いで、一度鼻に止まった虫を取ったことがあったのを思い出した。あのときの血の気が引いた顔は今も頭に焼き付いている。

 2人でたわいもない話をしながら食堂に入った。三階建ての大きな建物になっていて、カフェやパン専門店など、複数の店が入っている。ロアンはサラダと飲み物のみという、ダイエット中の女子みたいなメニューを頼んだ。

「ロアン様……それだけでよろしいんですか?」
「ああ。あまりお腹が空いていないんだ。俺はルサレテが美味しそうに食べているところを見られたら満足だよ」

 ルサレテは自分が頼んだステーキを半分ナイフで切って、彼の皿の上に載せた。

「ひと口でもいいから召し上がってください。午後の授業まで持ちませんよ。あ、このお肉、柔らかくてすっごく美味しい……!」

 少しでも食欲が湧くようにと、大袈裟に美味しそうな表情で肉を頬張って見せると、その様子がおかしかったのか彼はふっと小さく笑った。ルサレテが分けた肉を食べて、本当に美味しいねと言う。

「最近……体調はいかがですか?」
「君がくれた薬のおかげかな。楽に過ごせているよ」

 作り笑いを浮かべている彼を見て、ルサレテはフォークを動かすのを止めた。
 ルサレテは知っている。ペトロニラ視点のゲームをプレイしたとき、ロアンの病状は悪くなっていくだけだった。気丈に振舞ってはいるけれど、実際の体調は良くないはず。