その日。午前中の授業を終えたルサレテは、学園の食堂でロアンと昼食を一緒に食べることにした。授業が早めに終わってしまったので、待ち合わせ場所にした芝生広場では本を読んで待っていると、遅れて彼が来た。ロアンはルサレテの隣に座り、手を日除けのためにルサレテの目の上にかざした。

「日差しが眩しいでしょ」
「……そうしていたらロアン様の手が疲れてしまいますよ」
「俺は平気だよ」

 そう言って彼は喜んで日傘役をする。ルサレテの制服のスカートが汚れないようにと芝生の上に自分のハンカチを敷き直そうとし始めたので、そこまで気を遣わせるのは申し訳ないと思い、本を閉じて早く食堂へ行こうと伝える。

「もういいの? キリがいいところまで読んでいっていいのに」
「…………」

 ロアンと親しくなってきたが、このごろはやけに、甘やかされている気がする。それに、こちらを見る瞳が熱を帯びているように感じることも。

「ルサレテ。そこ、足元気をつけて」
「え?」

 食堂へ向かうための外の道を歩いていたら、彼に腰を抱き寄せられる。目線を下にやると、1匹のカエルがこちらを見上げていた。もう少ししたら踏んでいたかもしれない。
 昨夜は雨が降っていて水溜まりがあちこちにできており、ロアンはルサレテが踏んで靴を汚さないようにとエスコートした。

「最近、なんだかやけに優しいですね。優しくしてくださっても何もあげないですよ?」
「はは、そういうんじゃないよ」
「前は『言っておくけど、俺が君の味方っていう訳ではないから』……とか言って散々冷たくしてきたくせに」

 昔ロアンに言われた言葉を、声や表情を真似して言うと、彼は苦い顔をした。