何やら怒った雰囲気の女子生徒たちを見て、建物の影に隠れて様子を窺うことにした。

「私たちが刺繍や課題を代わりにやって、ペトロニラ様を立てるのは、ルイ様やエリオット様、ロアン様、サイラス様に紹介してもらうという見返りのためでした」
「でも、ペトロニラ様は一向にご友人に私たちを紹介せずに利用し続けましたよね? もう絶対に手伝いませんから」
「最近はルイ様たちとも一緒にいませんよね? それって、人の手柄を自分のものにするような性格がバレて愛想尽かされたからではないんですか?」

 女子生徒たちはペトロニラの影武者として刺繍をしたり課題をしたりしていたらしい。だからペトロニラは刺繍で賞を取り、優秀な成績を修めていたのだと理解した。『完璧なヒロイン』という設定を守るために姑息な手を使っていたらしい。

「ま、待って……! なら、欲しい情報を何でも教えてあげるわ。たとえば、王太子殿下のお好きな食べ物とか……!」
「マスカットでしょう。そんなの、ファンなら誰でも知ってます。もうペトロニラ様に協力するのはこれきりということで。それでは」
「…………」

 取り残されたペトロニラは悔しそうに下唇を噛んでいた。ルサレテは全部見なかったことにして部屋に戻った。

 宿舎の部屋でひとり、攻略対象たちの好感度を確認するルサレテ。その膝の上で、シャロも一緒に空中ディスプレイを眺めている。
 ルサレテは彼の毛を撫でながら聞いてみる。

「ねえシャロ? 攻略対象者たちのペトロニラへの好感度ってどんな感じなの?」
「うーん……ちょっと調べてみるネ。――ウワッ!」
「うわ?」

 シャロは妖精用の小さな空中ディスプレイを表示し、慣れた手つきでそれを操作する。そして、ペトロニラの好感度を確認して、元々大きな瞳を更に見開いた。ルサレテも覗き込んでみると、驚くべき数値が出ていた。

「全員……-50って……」
「たった半年でよくもここまで嫌われたヨネ。逆に才能なのカモ」

 好かれるのは難しいが嫌われるのは簡単と言ったりするが、まさかここまでとは。元々好きだったからこそ、ふいに見せる短所が余計に目立ち、不信感が大きくなるのも早かったのだろう。
 しかし、ペトロニラが周りからどう評価されようともう知ったことではない。大事なのは、ルサレテがゲームクリアに近づくことだけだ。

「もし私がゲームをクリアしたら、あなたは妖精界……的なところに帰るの?」
「うん。ゲームを使ったボクらの検証もおしまいになるからネ。ボクは研究所の上司に報告したあと、新しい観察対象にする異世界人を探しに行くヨ」
「ふうん。妖精の社会も人間と変わらず忙しいのね」