「怪我させて、悪かったな。それで? 俺は何をすればいい?」
「何をって……どういう意味ですか?」
「怪我をさせた詫びだ。そのつもりで庇ったんだろ」

 ルサレテが怪我をさせたことへの責任を取らせようとしているかのような口ぶりだ。
 もし、ペトロニラが言いふらしたようにルサレテの意地が悪ければ、これに乗じて理不尽な要求をしていたかもしれない。でもルサレテは、一切そういう気がなかった。

(好感度……まだ上がってないんだけど。こんなに体を張ったのに。選択肢を間違えたみたいね)

 視線を少し上に向け、好感度メーターを確認するが、サイラスの好感度は-100のまま。それを見て、ルサレテはすっかり意気消沈、落胆してしまった。若干苛立ちながら、投げやり気味に言う。

「別に何もしてくれなくていいです」
「嘘つくな。本当は俺を脅して何かする気なんだろ? ペトロニラはお前のことを計算高く狡猾だと言っていた。何の目的もなく人を助けたりしない」

 いちいち高圧的というか、上から目線でものを言ってくるサイラス。前世でゲームをしていたときは、いわゆる俺様キャラというような属性で好きだったのに、好感度-100となると、ぞんざいに扱われすぎて逆に嫌いになりそうだ。

「では、何もしないことを要求します。サイラス様の剣で怪我をした話は、これでおしまい」

 ルサレテは手当してもらったお礼を伝えて立ち上がり、さっさと医務室を退出した。
 部屋に残されていたサイラスは、ルサレテの態度に呆気に取られて目を瞬かせた。

「何もしないことを要求します……か。はは、おかしな女」

 そのとき、彼の好感度が-80まで上昇したのをルサレテはまだ知らない。

 医務室を出ると、待ち構えていたかのように廊下でペトロニラが話しかけてきた。

「さっき……サイラス様とおふたりで歩いているのを見たんだけど」
「…………」

 腕を組みながら近づいてくる彼女。またか、とルサレテは小さく息を吐く。階段から落ちた日も、ペトロニラにロアンと話していたことを追及されたのを思い出す。

 友だちと庭園のテラスで軽食を食べていたペトロニラは、ルサレテとサイラスが一緒にいるのを見て慌てて追いかけてきたが見失ってしまったのだと話した。怪我をしたから医務室で手当をしていたのだと説明すると、彼女はわざと怪我をした方の腕を掴んできた。