――ごんっ。
 剣がルサレテの腕に弾かれ、鈍い音を立ててから地面に転がる。ずきずきと痛む左腕を押さえながら、女子生徒に尋ねる。

「怪我はないですか?」
「は、はい。それよりあなたの方こそ大丈夫ですか!? すみません、庇ってもらっちゃって……」
「私も大丈夫です。……大したことはありません」

 必死の作り笑いを貼り付けて大丈夫と言いつつも、実際はかなり痛い。サイラスの好感度を確かめるのはまた今度にして、とりあえず医務室に湿布をもらいに行こうとすると、彼がこちらに駆け寄ってきた。

「大丈夫か!? 悪い! 俺の不注意だった!」
「こちらの方が私のことを庇って怪我をされています!」
「それは本当にすまな――って、ルサレテ嬢……」

 庇ったのがルサレテだとは知らなかったサイラスは、一瞬だけ嫌な顔をした。ルサレテに謝るのは不本意のようだ。

「大したことはないので、ご心配なく」

 そう伝えてひとりで医務室に行こうとするが、意外と律儀な彼はわざわざ付いてきてくれた。医務室には人の姿がなく、サイラスが代わりに手当までしてくれることに。医官が来るまで待つからと抵抗したが、彼は頑固で、強引だった。無理やり椅子に座らされて、腕を見せるように言われる。

「別に私、医官を待てますけど……」
「はぁ。お前は本当に頑固だな? いいから大人しく言うことを聞けって」
「…………頑固なのはそっちでは」
「今なんか言ったか」
「い、いえ! 何も……! サイラス様は天よりも広いお心を持ち、海よりも深い慈愛のある方だなぁと……」
「ったく。調子のいい女だ」

 顔を横に振り、しぶしぶ腕をまくって売った部分を見せると、赤く痣になっていた。

「相当痛かっただろ」
「階段から落ちたときよりはマシです」
「それは自業自得だ」

 自分は無実だと訴えてみるが、彼は「そうかよ」と鼻で笑うだけでまともに相手にしてくれなかった。サイラスもやはり、付き合いの長いペトロニラのことを信じているようだった。しかし、湿布を貼り、包帯を巻いてくれる手つきは不器用ながら優しい。