そう声をかけて両手を伸ばし、虫を包み込むようにして捕まえる。虫に脅えていたエリオットは安堵を滲ませていた。ルサレテはそのまま虫を窓の外に逃がした。

「山へお帰り」

 動物も虫も苦手ではない。貴族令嬢として生きてきた今世は、屋敷に虫が出ると召使いたちが対処するが、前世では自分でなんとかするしかなかった。かさかさと床を這い回る黒いアレが出ればスリッパの裏で叩き潰し、蜘蛛なんかが出たら害虫を食べてくれるからと共存することもいとわなかった。

 虫を逃がして席に戻ると、ロアンの好感度は+1とほんの少しだけ上がっていた。あわよくばもう少し上げたいところだったが、虫を対処したくらいでは+1くらいが妥当かもしれない。
 一方、エリオットの方を一瞥すると、彼の好感度は-100から-60まで跳ね上がった。……彼はよっぽど、虫が嫌いらしい。

 ルサレテが攻略したいのはロアンだが、結果として思わぬ相手の好感度の方が高くなったのだった。