「憎んでいるのはペトロニラの方でしょ? だって、私を――階段から突き落とすくらいなのだから」
「よくもまた、そのような嘘を……っ。ひどいですっ……うぅ」

 両手で顔を覆い、ぐすぐすと泣き出す彼女。しかしルサレテは、それが嘘泣きだと分かりきっているので、少しも心を揺さぶられない。半眼で彼女のことを見たあと、淑女の礼を執ってエントランスを後にした。
 ペトロニラを泣かせたことで、エリオットとサイラスの好感度が-110まで下がっていた。

(ひどいのは……誰よ)

 エントランスを出たあとで、ルサレテは悔しさで下唇を噛んだ。ふと窓の外に視線をやると、まん丸の月が煌々と夜空に輝いていた。ふいに頭の中に、今日ロアンが初めて見せてくれた笑顔が思い浮かぶ。前世のルサレテも、ゲームのスチルで見たあの笑顔が大好きだった。ほんの些細な一瞬だったのに、脳裏に焼き付いている。
 ルサレテは高鳴りかけた胸をそっと手で押さえた。