深く親交のあるペトロニラには、ひとつ年上の姉がいた。有名なペトロニラに対し、姉の方は取り立てて褒めるようなところもなく、目立たない令嬢だった。ロアンとは同級生だったが、初めて話をしたのは、ペトロニラの誕生日会だった。

 ロアンは友人には病気のことを隠している。しかし、広間の人混みに酔ったのか急に気分が悪くなり、バルコニーに逃げるように出た。すると、果実水が入ったグラスを片手にひと休みしている先客がいた。

 彼女こそ、ペトロニラの姉のルサレテだった。ふわふわとした金髪をなびかせ、庭園を眺める青い双眸は憂いを帯びている。いつも明るくて笑っているペトロニラとは違い、静かな雰囲気だった。

「僕もご一緒しても?」
「……構いません。どうぞ」
「ありがとう」

 外の風に当たって少し休めば楽になると思ったが、身体を冷やしたのは逆効果で発作が起きてしまった。ごほごほと咳き込むロアンの背中を、咄嗟に彼女が擦ってくれた。苦しんでいるときに擦ってもらったのは小さな子どものころ母親にしてもらった以来のことで、不思議と心が安らいでいく。
 口を押さえていた手のひらに血が付いたのを、ルサレテに見られた。血を吐く咳は、一般的に悪いものと知られており、それを分かっているのか、ハンカチを貸してくれた彼女は、心配そうに言った。

「このことは誰にも言わないでくれるかな」
「分かりました。……お医者さんには診ていただいているんですか?」
「うん。でもこれはもう――治らない病気なんだって。人より長くは生きられないとはっきり言われてる」
「…………」