得意げにふんと鼻を鳴らしてシャロを見て、おかしくて笑ってしまった。

 それなら、ルサレテがペトロニラに嫌がらせをしていたという誤解を人々から消してもらおうか。それとも、家から出て一生不自由なく暮らせるようにしてもらおうか。

 そんな願望が頭に浮かぶが、それと同時にロアンが咳き込んでいた姿を思い出した。
 画面の人物紹介をタップし、ロアン・ミューレンスのキャラ詳細を確認する。

 筆頭公爵家の嫡男である彼は、美男子というだけではなく、人当たりがよく優しい、文武両道の魅力的な男だった。――しかし、肺を患っており、周囲に持病のことを隠している。彼はゲームのどのエンディングでも、先の人生が短いことがほのめかされていて、全体的に切ないストーリーになっていた。
 そして彼は、前世のルサレテの推しだった。何度も彼のルートをプレイし、切ないストーリーに涙した。

 ルサレテはスカートをぎゅっと握って尋ねる。

「病気を……治すことはできる?」
「――できるヨ」

 妖精の力を使えば、崖っぷちになった自分を救済することができる。それでも、現実に生きている推しのことを見殺しにすることができない。

「……なら、私がゲームをクリアした日には、ロアン・ミューレンスの病気を治してあげて」
「承知! それじゃ、攻略頑張ってネ! どんな結果を見せてくれるか、楽しみにしてるヨ!」

 シャロはくるりと旋回し、光の粒子となって空中ディスプレイに吸い込まれていった。
 かくして、好感度-100の乙女ゲームが開始した。