わたしとエディが会えば、小さな生き物の命が奪われる。

 小鳥からウサギへと続けられた警告は、子猫子犬と徐々に大きな生き物になり、身近に迫ってくる。



 ある日の夕刻、邸裏の通用門に置かれていたヤギの頭を見て、通いの下女が悲鳴をあげた。


 ── 次は人間だ、お前は最後まで残しておいてやる


 ヤギの口に差し込まれていたカードに記されたメッセージ。
 周囲はそれを隠していたが、わたしは知ってしまった。
 

 家族や使用人なら、父が守れても。
 領民にまで、その手を伸ばされてしまったら、もう無理だ。



 心身共に追いつめられたわたしは。
 変わらずに会いに来てくれるエディに向かって……


 本当に人を殺すまでしない、君を追い込むのが奴等の狙いなんだと聞かされても。
 貴方を諦めるからと繰り返して。
 これ以上意地を張らないで、とお願いをした。


 彼は国や自分に圧力を掛けるのではなく、矛先をわたしに向けたことに憤っていたから。



 父に頼んで、陛下に話して貰って。
 そのタイミングを計ったかのように、再び帝国から縁談が持ち込まれ。
 わたしが限界だと判断したエディが、受け入れた。

 
 そうすることで問題が大きくなる前に、警告は収まった。



 最後にもう一度だけと。
 ふたりきりで会えた。





 一昨年のデビュタントは欠席した。

 アイリスには参加しなかった理由を何度も尋ねられたけれど、答えなかった。

 
 王族席に座るエディに会うのが、怖かった。
 平気な顔をして会える程、大人になってはいなかった。
 何より……
 必ず、見張られている。
 挨拶のみであっても、わたし達が接触すれば。
 動物以上の警告が、再び送られてくる恐れがあった。
 



 彼が帝国へ向かうまで。

 或いは、わたしが誰かと結ばれるまで。



 外出にはいつもスザナが付き添って。
 離れた場所からレイドが見守ってくれていた。
 

 ずっとエディが、わたしを守ってくれていた。



     ◇◇◇



 ……だけど、もう大丈夫だとレイドから彼に伝えて貰おう。



 いつまでも、貴方を頼っているのは間違っていました。

 他の誰かに守って貰うわたしを見たら、貴方の心配も負担も減るだろうと、思い違いをしていました。



 一緒に戦おうと手を握ってくれたのに、逃げ出した。

 わたしから貴方の手を離したのです。

 


 『貴女が歩む道程に』
 幸多かれと、侯爵閣下が贈ってくださった言葉。


 
 もう大丈夫です。
 これからは、自分ひとりで歩きます。


 ですから。

 預かっていたレイドとスザナはお返し致します、エドワード殿下。