言い切ったわたしの顔をしばらくご覧になっていたオースティン様はひとつ咳払いをされた。

 グレイソン先生も気まずくなると、咳払いをされていたことを思い出した。

 

「……昨夜父から、今付き合っている女性、もしくは心に決めた女性はいるか、と尋ねられました」

「……」


 急に話題が変わって、何を言い出されたのか、追い付かない。


「それで、あぁ父は私と貴女がそうなればいいと思い、流石に兄弟揃って女性関係で貴女を傷付けるのは避けたいと事前確認をされたのだな、と思いました」

「……そう、そうですか」


 そうなれば、と言うのは。
 つまり、そう言う……弟の代わりに兄を?


「こちらから弁護士抜きでと言う申し出をしたことも、今朝聞きました。
 恐らく、彼が同席しなければ、父は伯爵様に私との縁組を打診する予定だったのでしょう。
 そして、伯爵様の方はその可能性もあるだろうと予防線を張られた。
 それで、父は貴女を諦めた」

 
 彼、と仰っているのは秘書だと紹介したフレイザー様のことね。
 グレイソン先生と父が、あんな嘘をついてまで同席させた理由は、あらかじめ予防線を張るため……


 オースティン様は経緯を説明したいだけで、御本人には縁組をするつもりは無く、返事も求めていないようなので、黙っていた。 


「彼は、私が学院の中等部に在籍していた頃、高等部に居られたハリー・フレイザー卿ですね。
 卒業まで首席を続けられていたけれど、天才型ではなく努力の人だと一目置かれていて、私達の世代では有名でした。
 御本人は、ご存知ではなかったでしょうが」


 遠縁なんて嘘を付いたけれど、やはりオースティン様は最初から気付いていらっしゃった。
 まさか貴族学院の先輩だったとは。
 だったら、フレイザー様が弁護士だということも当然ご存じでしょうね。


「貴女は何度か彼の顔を見て、反応を確認されていたでしょう?
 余程、フレイザー卿を信頼されているのだなと」

「信頼していると仰せになる程、お会いしてはいません」

「……無意識だった、と言うことですね」



 オースティン様はそう仰るけれど、まだ2回しか会っていない方だ。
 そんなに、あの方の顔を見ていた?
 自分が指摘される位にフレイザー様を見た覚えは無いし、そんなわたしをオースティン様が見ていたことにも気付かなかった。




「では、改めて。
 私と……俺と結婚していただけますか?」


 急に目の前でオースティン様が片膝を着いて、わたしを見上げて左手を差し出した。



 ……今までの会話のどこに、わたしに求婚する要素があったのか。
 
 オースティン様の思惑が読めなかった。