名前ではなく、グローバーと姓で呼ばれて、クズが黙った。
 他人行儀な物言いと『穢らわしくて吐き気がする』と言われたことでショックを受けたのかもしれないが、こんな密会現場を見せられたわたしが、おとなしく言うことを聞くとでも思っていたのだろうか。
 


 舐めないで欲しい、わたしはハミルトンだ。
 何ひとつ、誰ひとり残らなくなっても。
 この手から離れていくものにすがったりしない。



「そういうわけなので、今日はグローバー様のお話はうかがえません。
 父と相談して、ハミルトンからサザーランド侯爵家へ後日連絡を差し上げますので、お待ちくださいませ」


 正式な婚約こそ結んではいないが、お互いの親同士も顔合わせは済ませていて、婚姻についての取り決めも話し合っているところだ。
 わたし達ふたりだけで、この場で別れる別れないの話をする段階は過ぎている。
 

 秋に予定されていた婚約式の式場も既に押さえていたから、そのキャンセルによって起こるであろう問題も想像出来て……
 わたし達の破談はそんなに簡単には片付かないだろう。




 わざと爵位名を出し、下げたくもない頭を丁寧に下げた。
 わたしは伯爵家の娘で、キャメロンは侯爵令息だ。
 学院内では親の爵位は関係なしとされているが、それはあくまで建前。
 友人でもない限り、生徒同士のその線引きはきちんとされている。


 もう私達の関係は友人でさえ、ない。