「政治的権力など、その時々の潮目で移り変わる。
 だが王家とハミルトンは、それを絡ませないことで、世情に左右されない友人関係を続けていくことになった。
 あの家を政治利用する為に、己の派閥に組み込もうとした中央貴族は、ことごとく何かしらのお咎めを受けている」

「……お咎めって、俺も?」


 他人事のように聞いていたキャメロンも、ことごとくと聞いて、呆然としている。
 この分だとマーフィーだって無事では済まない気がする。


「お前は自分の事だけだな。
 この破談についてなら、単なる侯爵家と伯爵家の問題で、何ら王家には関係がない。
 なので、お咎めもない。
 だが我が家に対しての国王陛下の心象は、格段に悪くなった。
 名付け親の王弟殿下は勿論だが、エドワード殿下が相当……
 お前はまず、来年の文官試験には合格しないだろうし、マーフィー子爵は新年度には地方に飛ばされるだろう」


 良かった!マーフィーは取り潰しではなく、飛ばされるだけで済んだ。
 シンシアは王弟殿下には、特に何も頼まなかったのね。
 わたしに対する嫌がらせは、人でなしとしか言いようがないけど、そこは感謝するわ。




 国王陛下や王弟殿下に睨まれたなら、侯爵閣下も大変だろうけれど、エドワード殿下が来年帝国の何番目かの皇女に婿入りするのは、わたしだって知っている。
 そんな居なくなる王子の怒りを今は買っても、何年後かに継ぐ優秀なお兄様なら大丈夫。

 今の陛下の心象が悪くても、お兄様には一緒に留学した、それこそ次代の王弟殿下となる第2王子アルバート殿下が後ろ楯に付いているから!



「シンシアは性格も家格も派閥も吟味して、自分の気持ちだけでは結婚相手を選ばないと言ってました。
 わたしはそんな基準で選ぶなんて不純だと思っていたんです。
 デビュタントにも参加出来なかった田舎貴族の癖に、何を偉そうにって……
 でも、そんな伝手があるんだったら、教えてくれるのが当たり前でしょう?
 だったら、わたしだって……」


 あの時シンシアの口元に浮かんでいた微笑みを思い出して、あれはわたしを馬鹿にしていたのかもと気付いた。
 それで、腹立ち紛れに初めて彼女に対する心の内を、他の人の前で明かした。



 決してキャメロンには見せなかったシンシアへのドロドロした感情。
 初めてそれを聞かされて、彼はわたしを信じられないように見たけれど、もうどう思われても平気だった。