「マーフィー嬢、キャメロンに来年貴族学院を卒業したら、君と結婚することを命じた。
 だが君は今年度で退学する。
 そしてキャメロンより一足先にサザーランド領へ行き、母親のようだと甘えていたセーラと同居して貰う。
 住み慣れた王都から領地へ移ったことで望まぬ生活に疲れるだろう姑を、嫁として尽くして差し上げてくれ」


 そんな!今では、セーラ様にわたしが誘惑したなんて弁明したキャメロンとは結婚なんかしたくない!
 それに、わたしを憎んでいるセーラ様、いや最低女のセーラに尽くせ?
 


「キャメロンと結婚するのは嫌です!
 それにセーラ様と同居なんて、絶対に無理ですから!」

「……何が無理なのかな?
 友人を裏切ってまで欲しいと願った大好きなキャメロンとなら、領地暮らしも楽しいだろうし、セーラとも親子のように仲が良かったじゃないか?
 あぁ、領地経営には関わらなくてもいいから、余計な努力も必要ない。
 向こうには代々支えてくれている優秀な顔触れを大勢揃えているから、全て彼等とその奥方に任せて、君は領地の社交に顔出しは不要で、田舎の人間関係に悩まされることもない。
 君の仕事はセーラの世話と話し相手、それだけだ」
 

 
 嫌、絶対に嫌だ!
 そんな結婚なら修道院の方が、遥かにましよ!



 
 お兄様には聞いて貰えそうもないから、キャメロンの方へ視線をやると、彼は顔を上げていて、わたしを睨んでいた。
 キャメロンの怒った表情を見せられたのは初めてで、やはりセーラの息子だ、瓜二つだと思った。


 そんなキャメロンは鋭い視線をわたしに固定したまま、わたしにではなくお兄様に向かって話し始めた。


「俺だって無理です!
 たった、たった1回だけです!
 こいつとしたのは!
 好きだ、何も求めないからと誘ってきたんです!
 シンシアとの結婚の邪魔はしないとはっきり言ったから、俺は抱いたんです!
 それなのに何故こいつと結婚をしなくてはならないんですか!
 明日、俺もシンシアに会わせてください!
 後から貴方の事情は聞くと言ってくれたんです!
 話を聞いて貰えたら、彼女はきっとわかってくれます!」


 クズ男が本音を叫ぶ。
 ほらね、シンシアの前では格好つけて、俺が悪いなんてわたしを庇う振りをしたのに、お兄様の前では1回だけなのにって開き直って!


 確かに最後までしたのは、あの図書室の1回だけ。
 だけど、4月5月の美化委員会でシンシアが居なかった時は、あの準備室で待ち合わせて、途中までやったじゃない!
 あんたが火曜日は誰も来ないからとか見つけてきて、がっついて来たくせして、全部わたしのせいみたいに!


「1回だから?それが免罪符になると言うのか?
 ……それでシンシア嬢に会わせろと?
 お前は俺を舐めているのか?」


 地を這うようなお兄様の怒りを込めた低い声に、調子に乗って捲し立てていたキャメロンが黙った。