レイドは元々は、エディの護衛だ。

 それをお別れの日、彼はわたしにレイドを預けると言った。
 既に、陛下と父には許しを得ているとエディは続けた。



「レイドに、僕の代わりにシンディを守れと命じた」


 新たな任務を与えられたレイドの表向きの顔は、ハミルトンの執事。
 彼の妹のスザナは、わたしの中等学校入学に合わせて、侍女としてハミルトンにやって来た。


 彼女は実家で訓練も受けていて、男性のレイドでは常にわたしに張り付いているわけにはいかないから、これもまたエディが送り込んで来たのだった。
 彼等の給与は、現在もエディが個人資産から支払っているとスザナ本人から聞いた。


 有能なレイドは執事の仕事も難なくこなし、わたしの身辺に目を配り、そして何か起こればエディに会って、報告する。
 

 エディとは約束通り、あれから一度も顔を合わせてもいないし、手紙のやり取りもしていない。
 エディは定期的にではないが、レイドに会ってわたしの近況を把握しているようだけれど、わたしにはエディの情報は何ら知らされていなかった。


 そんな職務に忠実なレイドとスザナは、わたしがキャメロンと婚約した後はハミルトンを離れる予定になっていたけれど。


 来年、エディがこの国を離れるから。
 レイドは着いて行きたいだろうと思い、早く解放してあげたかったのに。

 これでまた、しばらくは共に居ることになってしまったので、彼等には本当に心苦しく思う。



     ◇◇◇


    
「思っていたより、力のある目をしているから安心した」

 父が幼い頃と同じように、わたしの頭を撫でた。
 こんな風に触れられたのは、随分久し振りだ。


 わたしが失った恋と友情を惜しんで、涙に暮れていると父には思われていたの?
 残念ながら、キャメロンとアイリスのせいで泣くのは一度で充分。 


 キャメロンとは政略ではないが、恋愛からの縁でもない。
 だからこそ、話が纏まるのが速かった。


 わたしの結婚相手は好きだという気持ちだけで選ばないと、彼を紹介してくれたアイリスにも、きちんと伝えていた。
 それなのに、どうして彼女もわたしに黙っていたのだろう。


 キャメロンが見せる明るさや優しさを好ましく思い、彼に甘えたことも、彼と幸せになりたいと思ったことも事実だけれど。
 もっと早い時点で、アイリスがキャメロンを好きだと正直に打ち明けてくれたなら。
 こんな形で裏切られなければ、わたしは身を引いたのに。
 
  

 知らない間に、当て馬から想い合うふたりを引き裂く悪役になるところだったと考えれば。
 確かにショックは受けたけれど、婚約する前で良かったとつくづく思う。

  
 こんな、わたしの可愛げの無いところは誰に似たのやら。