わたしが貴女を紹介してあげたのに。

 田舎者で地味で、王都でのお付き合いの仕方も知らない貴女と仲良くしてあげたのに。

 どうして、貴女がその場に居るのよ。
 そこはわたしの場所よ?
 わたしから奪うつもり?
 キャメロンの笑顔も、お兄様の優しさも?
 あの3人だけの思い出も?



 最初にわたし達に気付いたシンシアが立ち上がり。
 それに素早く反応して、彼女の椅子を引いたのはお兄様。
 少し遅れたけれどキャメロンも立ち上がって、シンシアをエスコートして、セーラ様に挨拶に来た。


「奥様がご不在でしたのに、お邪魔をして申し訳ございません。
 エリック・カーライル・ハミルトンが娘、シンシア・ローズと申します。
 どうぞよろしくお願い致します」



     ◇◇◇



「完璧ね、完璧なご令嬢だわ」


 カップをソーサーに戻しながら、母が感心したように言う。
 温室でお茶をしているのはわたし達3人だけ。


 セーラ様に挨拶をしたシンシアは、直ぐに暇を告げた。
 キャメロンはシンシアを彼女の邸まで送りに行き、お兄様はご友人と約束があると出掛けられた。



「そうかしら?普通だわ」

「いいえ、アイリスにはあのカーテシーは無理だもの」


 わたしの母親なのに。
 何故シンシアと比べて、わたしを貶めるの!
 ……確かに、シンシアがセーラ様に礼を取ったカーテシーは完璧だった。
 わたしにはとてもじゃないが、あんな真似は出来ない。

 だけど今時、王都の社交にあんなカーテシーは必要ないの。
 何年前の挨拶よ、本当にシンシアってやることが古すぎる。



「アイリスはいいのよ、今風で可愛いじゃないの。
 だけどあの子はダメね、キャムには相応しくない。
 母親だから分かるの。
 キャムはアイリスからの紹介だから、あの娘と付き合ってるだけよ」

「セーラ、お願いだから、ややこしくなることは口にしないで」

「わたくしは前々から言ってるでしょう。
 アイリスを本当の娘にしたいと。
 ねぇアイリスはどうして、あんな子をキャムに紹介したの?
 わたくしはキャムには貴女がお似合いだと思っていたのに」


 だって、キャムとわたしはそんな……
 単なる幼馴染みで。
 それにわたしはお兄様が好きだった。
 いつも優しかったお兄様のことが好きで……


 あの日、冷たくされるまでは。