「お父様に直ぐにお知らせして、こちらに来ていただかないと」


 あのふたりがどうして等、今更なことは母は聞かないでいてくれる。


「クーパー先生には診断書を書いていただきたいとお願いしてください。
 食事も摂れず、不眠になっているとか、何とか。
 話し合いの時に持参して、精神的に傷つけられたと慰謝料をグローバーとマーフィーの双方に請求したいと思っています」


 キャメロンとの対決は父が王都に来てからの話だが、母はわたしに明日から登校しなくてもいいと言ってくれた。
 学年末テストの結果や成績表は郵送で親元に送られてくるし、裏切者達の顔を見ずに長い夏休みに入れる。


 後日父から学院に、最終学年ではあのふたりとは絶対に同じクラスにならないようにお願いしていただく。
 理由を聞かれたら、そのまま伝えてもいい。
 わたしには恥ずべきところは無いから。
 その辺りの事情は汲んで貰えるはず。


「お父様にはグレイソン先生に、こちらへ来られる日を御連絡していただくわ。
 至急に侯爵家には、先生からそれに合わせての話し合いの申し入れをしていただきましょう。
 どうなるかはわからないけれど、クーパー先生の診断書を取っておくのは、いい考えね」



 ハミルトン伯爵家の顧問弁護士のグレイソン先生に相談しても、母が言う通りどうなるかはわからない。
 何と言ってもキャメロンとは、まだ正式に婚約をしていないから。
 両家の間の口約束だけだ。
 通常の相手有責の婚約破棄とは異なる。


 それで慰謝料は無理かもしれない。
 そこを攻めてくるのは多分……
 お兄様のオースティン様だ。


 オースティン様とは、侯爵邸にお伺いしたおりに何度か顔を合わせている。
 異母弟の交際相手の頃は丁寧に接してくださったけれど、破談となったからには今後どう対応されるか、わからない。


 わたしが領地から父を呼んだように、侯爵閣下も領地からオースティン様を呼び寄せるはずだ。
 あの御方は敵対する者には容赦がないと有名だもの。


 わたしが闘う相手は、侯爵閣下やあのふたりではなく、十中八九オースティン・グローバー様になる。