エピローグ
20〇〇年 春
「よっこらっせ」
巴はとあるアパートの一室に入り、絨毯に座った。
二〇〇〇年、巴は大学生になっていた。彼女は〇〇大学へと無事に入学し、一人暮らしをこの春から始めていた。
手狭で、昭和に建てられたアパートであることから、少し外観が古臭いと彼女は感じていた。
二〇〇〇年ではコロナ禍が終わり、人々もマスクを取り始めていた。そのためか、結婚式や、入学式、卒業式など、門出を祝う催しではマスクというものが消えていた。
しかし、それは日本だけだった。
海外ではオメガ株が更に変異し、新たなコロナウイルスとして世界中で猛威を振っていた。そして、ついには人類同士の争い、つまり戦争が始まり至るところで鉛玉が飛んでいた。
日本政府はオメガ株が変異した直後から、海外との渡航を一切禁じ、貿易も限られた国としかできないという、いわゆる〝鎖国体制〟がとられていた。
そんな海外で大変なことで起こっている中、日本国内では、巴は部屋でブツブツと呟いていた。
「うーん、これからどうしよっかなぁ」と天井を見上げて言う。
「やっぱ、大学生はバイトかなぁ」
「ああ、でもこの近くにバイトしてたっけ」
巴は白く塗装されたテーブルの上に置いてある、バイト募集の紙に手を触れる。
「……やってるなぁ。でも、人類がもうすぐ絶滅しそうなのにコンビニバイトって……」
バイト募集! という大きくプリントされたコンビニのチラシを放り投げ、巴は「あそうだ」とベッドの脇に置いてある鞄をまさぐり出す。
「うーん、どしよ」
巴が鼻と口の間に皺を寄せると、透明なテーブルに置いてある四六判の本に目が留まる。
それを手に取り、本のタイトルを口にした。
「『機械仕掛けの太陽』……」
『機械仕掛けの太陽』とは、現役の医師である知念実希人氏が新型コロナウイルスを巡り、様々な医療現場のリアルを赤裸々に綴った小説だった。
(……そうだ)
そして、そこからノートパソコンを取り出し、立ち上げる。
ブォン。
「……びっくりした」
パスワードを入れ、青い花が壁紙のデスクトップ画面が表示される。人差し指でマウスパッドを操作し、ワープロソフトを立ち上げる。
レイアウトタブから文字列の方向をクリック。
そこから、文字列の方向を横向きから縦向きに変える。
「……よし、今日から私は小説を書くとするか」
手をポキポキと鳴らす。気持ちよさそうだった。
慣れた手つきでキーボードを使い、書き出しの一文を打ち始めた。
日光が、彼女の横顔を指した。まるで、彼女の強い想いが指すかのように。
20〇〇年 春
「よっこらっせ」
巴はとあるアパートの一室に入り、絨毯に座った。
二〇〇〇年、巴は大学生になっていた。彼女は〇〇大学へと無事に入学し、一人暮らしをこの春から始めていた。
手狭で、昭和に建てられたアパートであることから、少し外観が古臭いと彼女は感じていた。
二〇〇〇年ではコロナ禍が終わり、人々もマスクを取り始めていた。そのためか、結婚式や、入学式、卒業式など、門出を祝う催しではマスクというものが消えていた。
しかし、それは日本だけだった。
海外ではオメガ株が更に変異し、新たなコロナウイルスとして世界中で猛威を振っていた。そして、ついには人類同士の争い、つまり戦争が始まり至るところで鉛玉が飛んでいた。
日本政府はオメガ株が変異した直後から、海外との渡航を一切禁じ、貿易も限られた国としかできないという、いわゆる〝鎖国体制〟がとられていた。
そんな海外で大変なことで起こっている中、日本国内では、巴は部屋でブツブツと呟いていた。
「うーん、これからどうしよっかなぁ」と天井を見上げて言う。
「やっぱ、大学生はバイトかなぁ」
「ああ、でもこの近くにバイトしてたっけ」
巴は白く塗装されたテーブルの上に置いてある、バイト募集の紙に手を触れる。
「……やってるなぁ。でも、人類がもうすぐ絶滅しそうなのにコンビニバイトって……」
バイト募集! という大きくプリントされたコンビニのチラシを放り投げ、巴は「あそうだ」とベッドの脇に置いてある鞄をまさぐり出す。
「うーん、どしよ」
巴が鼻と口の間に皺を寄せると、透明なテーブルに置いてある四六判の本に目が留まる。
それを手に取り、本のタイトルを口にした。
「『機械仕掛けの太陽』……」
『機械仕掛けの太陽』とは、現役の医師である知念実希人氏が新型コロナウイルスを巡り、様々な医療現場のリアルを赤裸々に綴った小説だった。
(……そうだ)
そして、そこからノートパソコンを取り出し、立ち上げる。
ブォン。
「……びっくりした」
パスワードを入れ、青い花が壁紙のデスクトップ画面が表示される。人差し指でマウスパッドを操作し、ワープロソフトを立ち上げる。
レイアウトタブから文字列の方向をクリック。
そこから、文字列の方向を横向きから縦向きに変える。
「……よし、今日から私は小説を書くとするか」
手をポキポキと鳴らす。気持ちよさそうだった。
慣れた手つきでキーボードを使い、書き出しの一文を打ち始めた。
日光が、彼女の横顔を指した。まるで、彼女の強い想いが指すかのように。

