「高坂!」

駅の改札口。
柱に背を預けていたあたしのもとに走ってきた彼。

「ごめん。待った?」
膝をおって息を整える藤崎にあたしは「うん。だいぶ」とジト目でいった。
苦笑いする藤崎を見て、あたしはふきだした。
「冗談だよ。いうほど待ってない」
そういったあたしに、藤崎は顔をくしゃっとして笑みを浮かべる。

その笑顔に胸がときめく。

あたしは、まだこんなんでどきどきしてる。

「で、どこ行くんだっけ?」
「あんたね、自分が決めるっていったんでしょ」
行先どうする?と聞いたあたしに、俺に任せとけ!とかなんとか言ってたことを忘れたのか。
「そうだっけ?」
「ほんと、計画性ないな」
「高坂もたいがいだろ」
「はあ? あんたよりはあるし」
「そういうけど、中学のとき、作文とかなにも考えず書いてただろうが」
「あんたも一緒だったでしょ!」
思わず声を張り上げて、言い合いする。

まったく。
久しぶりに会ったと思ったら、この展開。
あたしたちはほんと、がきで進展性がない。

「いいんだよ! できたんだから!」
「あんた、いってることめちゃくちゃ!」
「くっ」

ん?

今、明らかに違う声が入った。

あたりを見渡すと駅員さんが肩をふるわせて、笑いをこらえているのがみえる。

とたんに恥ずかしくなったあたしたちは、黙り込む。

「……行くか」
「うん」
藤崎が気まずそうにそういって、あたしも頷いた。

とりあえず行き先は決めずにぶらぶらすることにしよう。

こういうとき、ICカードの乗車券は便利だ。
改札を通って、藤崎の横を歩きながら、また心臓がどきどきと音を奏でる。

少し早めの春休みに入ったあたしたちは、たぶんお互いに気恥ずかしくて会わなかった。
だから、実は卒業式以来に藤崎と会う。

あたしは今日決めていることがある。
好きって、ちゃんと伝える。
バラに頼らずに、自分の言葉で伝える。

藤崎はあたしが好きと伝えたら、なんていってくれるだろう。
俺も好きだよとか?
いやいや言わないよね。キャラじゃないし。


「高坂、どこいくんだよ」

色々妄想していたら、どうやらとりあえず向かおうとしたホームを通り過ぎていたらしい。
藤崎が怪訝な顔をして呼び止められて、あたしは慌てて戻った。

「ごめん。ちょっと考え事してて」
「時々ぼーてアホな顔してるもんな」
追いついたあたしに、藤崎はけらけら笑いながらいった。
馬鹿にされたあたしはつい腹が立って噛み付く。
「アホってなによ!」
「いつか電柱にでも、ぶつかるんじゃねぇの?」
「そんなドジはしません!」
「どうだか」
「絶対しない!」
大声で叫んで断言すると、藤崎はどうでもよさげにへえーとだけいった。

むかつく!!

「とりあえず乗ろうぜ」
あたしのことは気にすることもなく、ちょうどホームに飛び込んできた快速電車を指差して、藤崎がいう。
そうなるともう従うしかなくて、あたしたちは電車に乗って、あての無い旅に出かけた。