好きを君に。


思わず顔を伏せると、胸元に刺さっているバラのコサージュが目に入る。
そして思い出すのは、神社の近くの花屋さん。

あ……。

「藤崎」

あたしは胸に刺さっているコサージュを手に取った。

「バラの花言葉、覚えてる?」
「え?」

突然の話題変換に藤崎が怪訝な顔をする。
あたしはコサージュのバラを藤崎に差し出した。
藤崎はなんでそんなことをされるかわからず、混乱しまくっているみたいだ。

「バラには本数で意味があるんだってお花屋さんで見たでしょ?」

お花屋さんで見たバラの花言葉。
108本は結婚してください。
12本は付き合ってください。
そんなたくさんのバラ、当然手元にない。
今、あたしの手元にはピンクのバラしかないけれど。
1本でも愛の言葉の意味はあって。

「……これ、あたしの、気持ち」


1本のバラの花言葉はーーあなたしかいない。


「……そんなん、覚えてねえよ」
藤崎は顔を真っ赤にしながら、ふてくされたようにいったけど、嘘だなと思った。
藤崎も、あたしと同じで嘘が下手だ。

「……告白の返事、これじゃだめ?」

顔をのぞきこんだあたしに、藤崎は目を逸らした。

やっぱだめかな?
ちゃんといわなきゃ。

あたしが考え込んでいると、藤崎が自分の胸ポケットのコサージュを取り出した。
「やるよ」
そして、それをあたしに差し出す。
「俺も、同じ気持ちだから」
仏頂面でそういう藤崎がおかしくて、でも恥ずかしくて。
あたしはえへへ、と照れ笑いしてしまう。


コサージュを交換し合うなんてあたしたちくらいかもしれない。