好きを君に。


「気づくの遅いんだよ、バーカ」

藤崎を睨んでいた桐野の目が穏やかになって、次の瞬間にはいたずらっ子の笑顔になった。

「わ、悪かったな。バカで」
しどろもどろに藤崎がいうと、桐野は肩をすくめた。

「悠哉」
藤崎を呼ぶ声は、いつも藤崎とじゃれてる声と同じだった。
「ハーゲンダッツな」
「は?」
「俺のおかげで気づけたんだから安いもんだろ? それで許してやる」
ぽかんとしていた藤崎は、ぼそっと不服そうに「わかった」といった。

「ま、俺あきらめねーけどな」
了承を得た瞬間にケラケラ笑う桐野は、あたしをみて優しい顔をする。
「元々長期戦覚悟だったし」
「なんだよそれ!」
「諦めが悪いんだよ。知ってるだろ? それに俺は、高校も一緒だしな」
だからさ、と桐野は続けた。

「高坂、泣かすなよ」

あたしはハッと桐野をみた。
まっすぐで真摯な瞳があたしたちをみつめていた。

「……がんばる」
「んじゃおじゃま虫は帰るわ。高坂、悠哉のこと、よろしくな」
そういって、階段をおりようとする桐野に、あたしは胸がいっぱいになった。

桐野は、ほんとうにあたしよりずっと大人だ。

あたしならいえない。
あたしが桐野の立場だったら、そんなこといえないよ。

どんな気持ちで藤崎にパッパをかけて、あたしに藤崎をよろしくといってくれたのか。
あたしには何も返すことはできないけど。

「ーー桐野!」

その背中を呼び止めてしまう。
桐野が振り返って、あたしは叫んだ。

「うれしかったから!」

桐野が目を見開いたのがわかる。
あたしはその勢いのまま、さらに言葉を続けた。

「桐野があたしに好きっていってくれて、本当にうれしかったから!」

あたしの言葉に桐野ははにかむように笑うと、手を振って去っていった。