「毎日あんたらも飽きないね」

さっき鬼の形相をしていた千香は、呆れたような顔をしていた。
千香こと如月千香(きさらぎちか)は、幼稚園から一緒の友達だ。一応。
とっても現実主義者で冷静沈着。

「あいつが悪いし」

ぜんぶあいつが悪い。
毎日毎日、ことあるごとにからかってくる。

「どっちもどっちでしょ」
「いーや、あいつが120パーセント悪い」
肩をすくめた千香に、あたしははっきりと断言する。

あんな耳元で怒鳴るから。
鼓膜破れたら、どうしてくれんの。

「そこまで思うくせに、なんで好きなの?」

千香が放った一言は、脳天に強烈な一撃をくらわした。
一瞬で頬の熱が上がって、即座に千香の口を塞ぐ。

「だれかに聞かれたら、どうするの!?」
小声で抗議すると、冷めた目をした千香があたしの手首を掴んで、口元から剥がす。
「大丈夫。聞いたって利益ないし」
「そういう問題じゃない!」
「耳元で叫ばないでよ。うるさい」
あたしの抗議に迷惑そうに見つめて、耳を塞がれる。
「~~~~」
行き場のなくなった怒りに耐えながら、千香をみると、もちろん感情のない瞳があたしを迎えてくれた。

千香って、どうしてこんなに冷たいの。
昔はここまでじゃなかったと思うんだけどな。

「そういう風に育てられたからだよ」
「人の心を勝手に読むな!」
「遥ってほんとわかりやすいからね」

あたし、なんで友達してるんだろ。

「幼稚園の時からの腐れ縁」
「うるさいな。いわれなくてもわかってる」
「じゃあ疑問に思わないで」
「その前に」
「人の心を読むな。でしょ?」

わかってんなら読むな!!

「もう掃除しよう。掃除」

構うのはやめた。
ほうきを持ち直して、掃除を開始した。

床をはきながら、視線はまたヤツのほうへ。
藤崎は友人の桐野とじゃれながら話していた。


『そこまで思うくせに、なんで好きなわけ?』

千香の言葉が脳裏に蘇る。
好き、という言葉で自分の言葉を表されると、いまだに照れてしまう。


その感情の名前に、

この気持ちの正体に、

あたし自身がまだ、慣れていない。


自分で考えて頬が熱くなるのを感じて、無心で掃除を進める。


……なんでって、いわれても。

正直、あたしにもわからない。


特別かっこいいわけでも、勉強ができるわけでも、スポーツ万能なわけでもない。
いつも喧嘩ばっかりで、口も悪いし。

いいところなんて、一つもいえない。
悪いところなら、やまほどいえるのに。

それなのに、なんで好きかって?

そんなの、あたしにもわからないよ。
あたしがあたし自身に聞きたいくらい。


でも、好きなんだと思う。


いつから好き。なんて、知らない。

この気持ちを自覚した時には、もう後戻り出来ないくらい好きだった。