ロッカーでエプロンを着けてから鏡で身だしなみに乱れがないかをチェックする。といっても日焼け止め兼用のファンデを薄付けしてるだけだから、チェックするのは髪の毛が整っているかくらいだ。
短大時代に最低限の身だしなみだと周りの友達から説得されて化粧をしたことがあった。だけど鏡に映る自分の姿がどうしても受け入れられなかった。
赤い色をした唇はまるで腫れているみたいだったし、ボリュームアップされた睫毛は実家に置いてある人形のようにしか見えなかった。でも周囲の反応はまるで正反対だった。気持ち悪くて直ぐに顔を洗ったら、勿体無いと沢山の人たちから言われた。
それでも、やっぱり私には化粧なんて似合わない。だからいつもほぼ素っぴんに眼鏡スタイル。これが一番落ち着いて毎日を過ごせる。
「おはようございます。川島さん」
「おはよう、青木さん」
開店二時間前。六階の文芸書のコーナーに、次々と挨拶の声が響く。それから淡々と作業開始だ。金池販売という取次店から届いている本の山の前に腰を据え、伝票内容を見ながら間違いないのかを淡々と確認する。いわゆる検品作業だ。
地味な仕事だからとこの検品作業を嫌がる同僚もいるけど、私はこの作業をするといつも幸せな気持ちになる。世に送り出されたばかりの新刊本に真っ先に触れられるなんて、こんなに素敵なことはないから。
それにお客さんが注文した本の中には、自分の知らなかった本も数多く目にする。小さな頃からもう何冊くらいの本に触れてきたのか自分でもよくわからないけど、それでも知らない本は山のようにある。
この仕事に就いていなかったら知らないままだった本は無限にあるはず。そう考えると検品作業は新たな本との大切な出会いの場所だって思える。