モアがドロテアと過ごした日から数日が経った。

 ここ数日、なにもない日常を過ごしている。

 朝になったら朝食を食べて。日が昇ったら花の世話をして。時間が空いたらおやつを作ったり、魔導書を読んだり。夜になったらイリスと一緒に眠る。

 そんな日常を。


「モア、見て」


 モアが朝食のシリアルを食べようとしたところに、イリスがやってくる。その手には郵便物が。


「ドロテアからだよ」

「……ドロテア」


 ドロテアからという封筒には、「すみっこ屋敷へ」と書かれている。封をきってみれば、なかには便せんが入っていた。
 

 ――モア、そしてイリスさんへ。

 お久しぶりです。お元気ですか?

 先日は、おじゃましました。

 そして、モア。一緒に遊んでくれてありがとう。あのとき一緒に選んだ服を着て、コスメで化粧をして、私、ダニエルに告白してきました。

 ダニエルは、笑顔で私の告白を受け入れてくれました。大好きな人と恋人になれて、私、とても幸せです。

 おまじないをかけてくれたイリスさん、そして応援してくれたモア。二人のおかげです。

 ありがとう。また、お礼を言いたいのでおじゃまさせてくださいね。

 ドロテア

 ――

「ドロテア……ダニエルさんと恋人になったのですか」

「うん、そうみたいだね! 俺も嬉しいなあ」


 自分のことじゃないのに、ふわ、と心が温かくなってくる。ドロテアの笑顔を見たときと同じ感覚。

 ダニエルのことが好きだと言っていたドロテア。恋をしていると言ったドロテア。彼女の願いが成就したらしい。それを知った瞬間に、モアは不思議な気分になった。今まで感じたことのない、胸がふわふわとする感覚。


「い、イリス……この気持ちはなんというのですか? 胸のなかがふわふわとして、それでも落ち着かないような……この気持ちはなんというのですか?」

「『嬉しい』じゃないかな。友達が幸せになって嬉しいって思ったんだよ、モアは」

「友達……。私とドロテアは、友達……?」

「友達みたいなものなんじゃない? ふふ、よかったね、モア」

「?」


 ドロテアは、色んなことを教えてくれた。楽しい。そして、嬉しい。

 彼女が幸せになれて――嬉しい。そう思う。

 いつか――知ることができるだろうか。


「イリス」

「うん?」

「……いえ、なんでもありません」


 ――ドロテアが言っていた、「恋」というものを。