喫茶店を出ると、ドロテアとは解散になった。

「お手伝い」とは、買い物に付き合って欲しいということだったらしい。

 一人の道を、モアは歩く。さきほどまでドロテアがずっとおしゃべりしていたので、一人になった瞬間にとても静かだなと思ってしまった。胸のなかがポカンと空いたような心地だ。

 日が沈み始め、空が暗くなりかけたころに、モアはすみっこ屋敷へ戻った。


「あの……ただいま帰りました」

「おかえり、モア」


 屋敷に帰ると、笑顔でイリスが迎えてくれた。

 なんだか、胸がきゅっとなる。


「ドロテアと何をしてきたの?」
 
「服や化粧品を買ったり、喫茶店で飲み物を飲んだりしました」

「楽しそうだね! よかったね、モア」

「……。……はい」


 ニコッとイリスが笑ったのを見て、はて、とモアは不思議に思う。

 なぜ、イリスはこうして笑いかけてくれるのだろうと。


「イリス。なぜ、貴方が笑うのですか?」

「ん? 俺? うーん、きみが楽しそうだからかな!」

「私が……? 私、楽しいのでしょうか」

「つまらなかったの?」


 楽しい?

 ドロテアにも言われたことだ。

 私には、「楽しい」がよくわからない。けれど。

 たくさんドロテアとおしゃべりをして。たくさんドロテアの「好き」を知って。ドロテアに「恋」を教えてもらって。たくさんのドロテアの笑顔を見て。

 ふわ、と胸が温かいような気持ちになって。

 きっとこれは――


「いいえ。……きっと、『楽しい』です」


 ふっとイリスが笑う。


「うん。だから、俺も――楽しい」