ティータイムが終わると、モアは部屋に案内された。机にベッドがある、きれいな部屋。ここが、モアの部屋らしい。

 イリスにボンッと服を渡されて、「着替えたら玄関まで来て」と言われた。モアはよくわからないままに、渡された服を広げてみる。シャツと、サロペット。それから麦わら帽子。いつもひらひらとしたドレスばかりと来ていたので、どう着ればよいのかすらもわからなかった。

 もぞもぞと試行錯誤してなんとか着てみる。姿見があったので覗いてみれば、だぼっとしたシルエットのなかに自分の身体が泳いでいるようだった。ぶかぶかとした服は初めて着たので、なんとなく居心地が悪い。

 似合っているのかどうかもわからないまま、モアは言われたとおりに玄関まで降りていった。そうすればイリスが「おお、似合ってる」と笑っている。モアが小首をかしげれば、イリスが「おいで」と外まで案内してくれた。


「花の世話はしたことがある?」

「……いいえ」

「じゃあ、やってみよう。みんな、やっていることだよ」


 すみっこ屋敷の花園は、こじんまりとしているけれど立派なものだった。たくさんの花が咲き誇っていて、見渡すかぎりの花、花、花。

 モアはイリスに言われるがままに雑草を抜いたり、水をあげたりしてみる。思ったよりも大変な作業で、脚が疲れてきた。ふう、とモアが一息ついてみれば、イリスが笑いかけてくる。


「きみがくれた手紙にも、花の絵が描いてあったね。モアは、花が好き?」

「……。好き、というのは……?」

「えっ? うーん。見ると心がときめくとか、嬉しくなるとか、そういうことかな」

「ときめく、とは?」

「う、うーん? 説明するのが難しいなあ」


 イリスはうつむいて、うんうんと唸っている。難しいことを聞いてしまったのだろうか、とモアは反省した。


「俺はね、甘いお菓子が好きなんだ。食べていると、ちょっとだけ幸せな気分になれる」

「幸せ……とは?」

「えーっと、うーんと、だめだ、俺には『好き』を説明するための語彙力がない」


 とうとうイリスが頭を抱えてしまったので、モアは慌てて「すみません」と謝った。きっと、自分が何も知らなすぎるのだろう、と思って。

 モアが謝れば、イリスは顔をあげる。そして、花を撫でながら呟いた。

「俺と一緒に、『好き』を探してみようね」と。