燃えさかる炎のなかを歩く。父は死んだ、母は死んだ、妹は死んだ。残るは自分だけ。

 ああ、こうなることが運命だったのかもしれない。怒りはなかった。恐怖もなかった。心のなかで、誰かに復讐されることを望んでいたのかもしれない。

 屋敷のなかをさまよっていると、人影が見えた。近づいてみれば、その人影が声をあげる。


「おまえが、……おまえが、イリス・ベールヴァルドか……!」


 女性だった。短剣を持って、こちらをにらみつけてくる。


「おまえのせいでニコラウスが死んだ! おまえのせいで、おまえのせいで……!」


 女性が駆け寄ってくる。短剣をこちらに向けて。

 逃げなかった。避けなかった。ただ、彼女に殺されることをこいねがう。

 そのまま短剣を腹で受け止めた。ドス、と衝撃が身体に走り、身体から力が抜ける。鈍い痛みが腹に響いて、そのまま崩れ落ちる。

 女性は声をあげて――そのまま自らの首を掻っ切った。鮮血が吹き上げて――その血が雨のように降りかかる。

 ぼんやりと視界が暗くなってゆくなかで、自らの手を見つめた。この手は殺戮しか生まなかった。この手が誰かの幸せを生む世界線はあったのだろうか――……