これで何とか間に合う。ヘアセットは学校でやってもらう。セットまでしていたら本当に遅刻しちゃう。


「お待たせ」

「湊月くん遅い!ほら、走って行くよ」


駅まで走ろうとしたら、また手首を掴まれてしまった。いい加減怒ろうとすると額に柔らかい感触が当たり、怒りを忘れてる。


「これが答え。次は口にするから覚悟しててね。あ、夢からしてくれてもいいんだよ?」


赤く染まった顔を隠すかのように、やや小走りでわたしの前を歩いていく湊月くん。

一方で突然の出来事に棒立ち状態から抜けられないわたしは胸のドキドキという鼓動と額に残る感触を感じていた。

幼なじみの時の時間はゆっくりと恋人の時間へと変化をもたらした瞬間だった。

前を進む湊月くんに置いてかれないように、少しずつ小走りで追いつくように頑張った。

湊月くんの期待に応えられなかったのがひとつの心残り。あの時わたしからしていたら、どんな表情を見せてくれたのか。

わたしからキスなんてものすごくハードル高い気がする。でも、好きな人から求められるのはとても嬉しい。

わたしももっと、湊月くんに触れて欲しいなんて欲望はある。付き合ってから色々と考えるようになった。これって普通?

今までとは違うことに戸惑って、心が追いつかない。“幼なじみ”の時間がどれほど大きかったのか。

ひとつ進む度にその答えは想像よりも遥かに感情をかき乱す結果となる。