俺の腕に抱きつき自身の胸を押し当ててくる。小坂さんはやたらボディタッチが多い。彼女のようなタイプは俺は苦手だ。



「離れてもらえませんか?前にも言いましたが、俺には付き合っている人がいるのでこういう事はやめていただきたい」

「えぇ〜?意地悪だな、もう!」



言えば離れてくれるが彼女は諦めずに会う度に俺に迫りよってくる。これは俺だけって、という訳でなく共演者には誰でもやっていることらしい。

彼女は気に入った相手にはさっきみたいに寄ってきてデートに誘って関係を作っていると政也から聞いた。

案の定、政也も一時期俺のように小坂さんから誘いを申し込まれたことがあると言っていた。

政也の場合、その誘いに乗ってすぐに切り離したと言っていたが………。


「ねぇ、神尾くん」

「何ですか?俺、約束があるんですけど」

「彼女と?」

「はい。待たせているのでそろそろ行かないと……」


あと5分で電車が出てしまう。ここから学校がある駅までは30分はかかる。乗り遅れる訳にはいかない。


「人の心なんてすぐに移り変わりますよ?」


足を止めたのは自分に都合の悪いことに思ったから。言葉の意味なんて深く考えなくても理解ができる。


「神尾くんとしばらく一緒に居られなかった彼女さんは、同じ学校の男子にその寂しさを紛らわすように心を委ねて……なーんて。神尾くんの彼女さんがそんなことするなんて考えられませんね。会ったことありませんけど」