『陽向のケガは必ず良くなる。お前が信じないでどうする………』


颯もそんな確証はないって分かっている。けど、苦しむ莉津を少しでも支えたい。自分が後ろ向きな気持ちでいるわけにはいかない。

不器用ながらも好きな子の笑顔を守るためには自分の想いを殺してでも、彼女の傍にいたい。

それが颯に出来る、精一杯の優しさなんだろう………。


「カット！…OKです！お疲れ様でしたー！」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」


リテイクなし。これなら帰りのHRが終わることには学校に行ける。

着替えを済ませて夢に『これからそっちに行く』と伝え、出口に向かおうとした。すると突然俺の頬に冷たい物があたり心臓が跳ね上がる。


「お疲れ様です神尾くん」

「小坂さん…。お疲れ様です」

「これ、差し入れです。良かったらどうぞ」

「ありがとうございます」


ベンチ近くにあった自販機で買ったであろう水。撮影で乾燥しきった喉を潤すにはちょうどいい。

小坂さんはよくこうして差し入れをしてくれる。年齢は1つ下だが、業界では先輩の彼女。新人の俺への気遣いなんだろう。

と、最初は思っていた。政也からの忠告を受けるまでは………。


「神尾くん。今日は早く終わったからさ一緒にお茶しませんか？私奢りますよ？」