少し快楽に身を任せそうになり、私は思い直る。
(私、こういうことは、好きな人としたいの!!)
思いっきり悠人の頬を叩く。ぱちん!!すごい音をたててしまった。
「……」
叩かれた悠斗は下を向いてしまう。しばらくそうしていた。
「先輩……」
私は声をかける。すると悠斗にあった耳としっぽがするすると消える。そして、こっちを見る目の金色の光が消えていく。そして我に返ったように
「輝……」
と呟く。
「正気に戻りましたか?」
私がそう言うと、悠斗は、
「ああ……。すまない。ありがとう」
と答える。そして少し考え込んだ後、
「あの、理性失っている時に何かしてしまったかな?君ならフェロモンが効かないから、記憶あると思うから」
と本当に心配そうに聞いてくる。私は、言おうか迷ったけど、先輩を苦しめたくなくて
「いいえ、未然に防ぎました。先輩力よわよわでしたよ」
と嘯いた。
「おかしいな、そんなはずはないんだけどな」
と不思議そうに笑いながら悠斗は私を見つめる。
「ありがとうね。助かったよ」
「はい、これが約束ですからね」
こんな危ない約束、これからも続けるなんて馬鹿げてると思う。それでも私は、悠斗の優しい心を知ってるから。ファンの子も私も傷付けたくないことを知ってるから。
月明かりが照らす中、
「また明日からも仲良くしてくださいね」
私は約束の言葉を口にするのだった。

それからも、同じ時間に頻繁に会う。気まずいかな、なんて思ったけど、案外そんなことはなかった。普通に話したり、勉強したり。前と同じように夜を過ごしている。先輩は昼間はみんなの王子様として、かっこよく振舞っているし、(たまに私に挨拶してくるから、嫉妬を買うんだけど)夜は私の前でただの一匹になり少しくだけている。私はそんな先輩が割りと好きだ。……割と。
満月の夜はオオカミになる先輩を、またぶん殴ってとめてひやひやしたり。本当に、フェロモンのせいで流されそうになるんだって…。言えないけど。