なんだか少し涙が出そうだった。あんなに一緒に二人で過ごしたのに、ありすを選ぶんだ。私にだけ見せてた顔、ありすにも見せるんだ。

「そう……」
私は帰ろうと思い、踵を返そうとする。その時だった。

「う……」
先輩の悶える声がする。
「大丈夫?!」
ありすが心配そうに先輩に近寄る。
(……ありすに触れるんだ。私に触れた手で)
そう思うと本当に悔しくなった。もう早くこの場を立ち去りたい。そう思った。しかし、先輩がありすに触れることはなかった。

「………輝は?!」
ありすはそう叫ぶ。
「オープンスクエア……」
「なら早く行かなきゃ!」
ありすの声で、少しだけ正気に戻った悠斗は、オープンスクエアに向かい始める。
(ありす、輝って言った?)
ありすはたしかに私の名前を叫んだ。なんで?なんで、今この時に、私が出てくるの?私は必要ないんじゃないの?どうして、ありすが私の名前を呼んだの?わからないことだらけだ。不思議な感情に駆られながらオープンスクエアに向かう。向かえば、きっと分かるはずだ。

走ってオープンスクエアに入る。すると、月明かりに照らされてオオカミ化した悠斗の姿があった。
「……先輩」
「輝……」
私は先輩と向き合う。先輩の隣にいるありすは、私を見ると、
「ごめんね、びっくりしたよね」
と言う。
「まずは、悠斗先輩の暴走をとめて。話はそれから。いつもどーやってとめてるの?」
無邪気な顔で聞いてくるありすに
「こうやってる!」
と、先輩を無理矢理壁に押付け、みぞおちにグーをいれた。
「わお……」
びっくりした顔のありす。ちょっとだけイライラしてたからいつもより強めになっちゃった。
「げほげほっ」
咳き込む先輩から耳としっぽが消えていく。
「これでよし」
「ほんとにこれで収まるんだ……」
「それで、どうして先輩とありすが一緒にいるの?」
私は二人に詰寄る。先輩はまだはあはあと息をしている。よほどさっきのグーパンが効いたみたいだ。
「あー、それはね」
ありすが、少し後ろに下がり、窓に寄り月明かりを浴びる。すると。ありすの頭にぴょこんと耳が生え、しっぽが生える。

「……!!ありすもオオカミ族だったんだ」
「私はオオカミ族と人間のハーフなの。だから人を襲うことは無い。けど、満月に照らされると、オオカミ化しちゃう」
「……そうだったんだ」
「それでね、私もフェロモンで困っちゃうことあってさ、最近先輩に相談に乗ってもらってたんだ……。実は私はもう彼氏がいるから、困ってないんだけどね。今日はその報告だったの。先輩からありすの話は聞いてたから。
最初はモテてるイケメン王子様がいるから私も追っかけちゃお〜、くらいにしか思ってなかったんだけど、なんかおかしいぞ?と思って確認したら、本当に一緒で驚いちゃった」
ありすはそう言って少し辛そうに笑った。
「ごめんね、今まで隠してて」
「……!オオカミ族だったことより!ありす!!私に彼氏出来たこと隠してたほうがびっくりだよ!夜な夜な別の部屋行ってると思ってたけど!」
「えええ……っ」
私がまくし立てる内容が思ってたのと違ったようで、ありすは困った顔をしている。
「先輩も!!ありすと会ってること、もっと早く教えてくれたらこんな思いしなかったじゃないですか!」
「すまない……。が、ありすのプライバシーもあると思って」
「あはは、別に私は言って良かったよ、輝になら」
「……ところで輝、こんな思いってどんな思い?」
え。え。
「どんな思い?!」
ありすまで興味津々に聞いてくる。
「そんなの……わかりませんよ!」

言えるわけない。嫉妬だなんて。先輩がありすを選んだんじゃないかってすごく辛かったなんて。そうだ。この夜は、私たちだけの秘密の時間。その特別が私は嬉しいのだ。

私だけが、先輩の色んな面を知っていたい……。

いやいやいや、そんなの、先輩のこと好きみたいじゃないか……!!