そして翌日の昼過ぎ。


「できた……」

「お、ついに?」

「うん! できた! ありがとう晶!」


自分でも満足できる作品が出来上がり、一気に身体の力が抜けてその場に座り込む。


「お、おい。大丈夫かよ」

「うん。……完成したと思ったら、なんか気抜けちゃって……」


晶はそんな私の元へゆっくり歩いてきて、私の手を引き立ち上がらせる。

その時、右腕が引っ張られたことにより肩に激痛が走り、


「っ……!」


思わず顔が歪む。


「どうした……!? え、俺そんな力入れてた?」

「ちがっ……ごめん、大丈夫」


晶にバレてはいけない。これ以上心配かけさせるわけにはいかない。

あとはこの絵をしばらく乾かしておいて、私は病院に行くだけだ。

それなのに。


「……お前、やっぱ最近変だろ。見るからにやつれてるし、昨日も全然食わねーし顔色も悪いし。ただの風邪かと思ってたけど、そういうんじゃないんじゃないか……?」

「……」

「今の痛がり方も普通じゃねぇよ。な、今から病院行こう。俺、お前の母さんから保険証もらってくるから」

「だ、だめ……」

「ダメ? なんでだよ、俺タクシー呼ぶし、それくらいの金はあるし病院まで一緒に行くから。大丈夫だから」


そうじゃない。晶、そうじゃないんだよ。

私に目線を合わせるようにしゃがみこんだ晶が、そっと私の身体を抱き寄せる。

そして次の瞬間、


「ほら、行くぞ」

「ちょっ……晶」

「いいから」


抱き寄せた私の身体を横にして持ち上げた。

いわゆるお姫様抱っこというやつに、私はパニックになり暴れる。


「こら暴れんな」

「だ、だって……歩ける! 歩けるから!」

「そんな真っ青な顔して冷や汗かいて何言ってんだよ。とりあえずタクシーくるまで保健室……いや、お前の母さんに連絡が先か?」

「晶! 私自分で歩く!」


何度もおろしてと叫ぶ私に、痺れを切らしたかのように晶がため息をつき、そして。


「ん……っ!?」


私の唇を塞ぐように、晶のそれが重なった。

何が起こったのかがわからなくて、大きく目を見開く。

目の前には晶の髪の毛。温かくて柔らかい感触に、身体が震えた。


「……ピーピーピーピーうるせぇんだよ。無駄に体力使うな。大人しくしてろ」


いつもより低くて掠れたような声に、私は身体を硬直させながらコクコクと何度も頷く。


「……これ以上心配かけんなバーカ」


そう言って黙り込んでしまった晶の顔が、真っ赤に染まっていて。

それがうつったかのように、私の顔まで真っ赤に染まってしまった。