「…鳴海さんの知らない人よ」


咄嗟についた嘘に、鳴海は不満そうな顔をした。


「…どうせ、あの男と会ってたんだろ…?」

「……?」

「俺の帰りが遅いから、いつでも会えるもんな…」

「だったら…だったら早く帰って来ればいいじゃない!」


今迄、私がどんな思いで鳴海の帰りを待ってたと思ってるの?

アルコールと香水の匂い、どんな思いだったか…。


悔しくて涙が出る…。


「泣きたいのは俺だよ…」


鳴海はそう、一言言い残して部屋を出て行った。




もう鳴海が解らないよ…



部屋に一人取り残された私は、前の様に鳴海を追いかける気持ちにさえならない…。

だって鳴海は一人じゃないもん。


香水の人がいる。


哲平はずっと私の事を待っていてくれた。
ずっと一人で……。


鳴海は私の事を必要としてくれてないんだ。
一緒に居る意味なんてあるの?

哲平の所に行きたいよ。

あの、心地よかった、楽しかったあの頃に戻れるのなら…。


少し大人になった二人なら、上手くやっていける気がするんだ…。



きっと……。