私は今、やっと鳴海を失いたくない事に気付いた……。

少しだけ震える手は止まる事はなく、鼓動が速くなる…。

いつも、当たり前のように居たから、鳴海への本当の気持ちに気付かなかった。

今頃、気付くなんて…。
私、バカだ……。

私は離婚届に記入はしないで、鳴海の帰りを待つことにした。

何があっても、全て受け入れてくれていた鳴海が出した、
”離婚”という答えは、きっと固い…。


もう何を言ってもダメかもしれない…。

鳴海を待つ時間は、いつもの何倍にも何十倍にも、長く感じた……。

いつも

”ただいま”

そう言って家に入って来る鳴海の声は無く、急いで私の部屋に向かって来る、足音だけが聞こえる。

―ガチャ


普段ノックをして声を掛けてから部屋に入る鳴海は、勢いよくドアを開けた。


鳴海は息を切らし、黙って私を見ている…。
私も黙って鳴海を見て、二人の間に少しの沈黙が流れた。


「…居たのか?」

「……」


私は言葉が出ない…。
何て言えばいい?
どうすればいい?


「ありがとう…」


私はそれでも何も言えなくて、鳴海の背中に腕を回し、強く抱きついた。