花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

 私が明さんを兄と慕うよう、明さんも妹みたいに感じてくれているはず。
 花森課長に転居届を書かされる際、ここの住所を記入すれば文句はないだろう。

「ね、ね? いいでしょ? 給料日前で金欠なの。部屋を見付けたらすぐ出て行くからさ、お願い!」

 身を起こし、音を立てて手を擦り合わす。明さんは蛇口を捻り、少しして絞るとエプロンを外す。
 そろそろ開店時間だ。明さん目当ての女性客も多く、この話題をいつまでも引っ張れない。
 じぃ、明さんを上目遣いで伺う。

「はぁ、君って子は……実家に頼めば金銭面はどうとでもなるのに」

 父に釘でも刺されているのか、今回はやけに粘られる。

「宮田工業で一般社員として働く条件のひとつが一切の援助をしないってやつで。お願いよ、明さん以外に頼る人いないんだ」

「もう、仕方ないなぁーー」

 そう明さんが折れかかった時だった。ドアベルが響く。

「話は聞かせて貰いましたよ。宮田香さん」

 なんと茶封筒を抱えた花森課長が現れた。

「は? なんで課長が?」

「それは私の台詞です。定時後は事務所で手続きをしましょうと言いましたよね? どうして待っていてくれないんですか?」

 ツカツカと大股で寄り、私と明さんを交互に確認する。関係性を値踏みするみたいで感じが悪い。

「あ、えっと、どなた?」

「失礼しました。私、花森と申します。香さんと待ち合わせをしていたのですが、すっぽかされてしまいまして。宮田副社長に相談した所、こちらではないかと」

 困惑する明さんへ流れる手付きで名刺を渡す。

「あぁ、貴方が花森課長さん! お噂はかねがね……香ちゃん、花森さんは本当にイケメンだね!」

「明さん!」

 肘をつんつんして茶化すので非難する。

「ほぅ、彼女がそんな風に?」

「あっ、いえいえ、香ちゃんは興味ないと言ってました」

 事実をほがらかに語る明さん。それはそれで妙な緊張感が走った。