花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?



 あれから数カ月後。兄が社長となり花森課長は部長に、私はプロジェクトリーダーとして働いている。
 今夜は昇進祝いを兼ねた食事を明さんの店でする予定だ。

「花森部長、遅いね?」

「どうせ部下の子に愛猫の写真を見せられて、鼻の下でも伸ばしてるんでしょ」

 先にビールを煽り、カウンターで毒づく。お店を貸し切ってお祝いするというのに遅刻するなんて。兄はともかく部長は珍しい。

「花森部長とお付き合いしているのを未だ秘密にしてるの? 婚約していると知れば他の女子社員もペットを餌にして接触しないと思う」

「前にも話したけど、新体制になって間もないし今は足場をきちんと固めなきゃ。プライベートで浮ついて、仕事に身が入っていないとか言われたくないから」

 今や明さんは恋愛相談の相手。同僚に内緒の社内恋愛ついてアドバイスを貰っている。

 おかわりを注いだグラスに指輪がカチンとぶつかり、特注の仕立てを天井へ翳す。

 わたしの場合、この指輪が異性を遠ざけるお守りとなるものの、部長は違う。なんなら最近は話をしやすくなったと言われ、女子社員に囲まれる。今日なんてペットの写真を見せられ、ニヤニヤしていたくらいだ。

「何が『私も可愛い子猫を飼っていましてね』よ! その可愛い猫がこうして祝賀会を手配したのに、連絡のひとつもなく遅れるってーー」

 携帯を取り出し、机に置く。

「香ちゃん、着信三十件ってあるけど?」

「……サイレントにしてたんだっけ」

「早く折り返した方がいいぞ。やばいんじゃない?」

「そ、そうね、掛け直そうかな」

 通話しようとした時、背後の扉が開かれた。