花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

「ひとまず休戦し、シャワーを浴びてきたらどうです? その間に朝食とコーヒーを用意しておきますね」

 むくれた頬を撫で、乱れた髪を梳く。

「そうだ、元上司に色々と試供品を頂いたので気になるのがあれば使ってみて下さい。浴室に準備してあるので」

 てきぱき身支度を整え、課長がベッドを降りようとする。気分の切り替えがすごぶる上手な背へくっつく。

「まだ拗ねてる? それとも甘えてる? 私を言い負かそうなんて百年早いんですよ」

「百年もかかったらお祖母ちゃんになっちゃうじゃないですか!」

「ならばお祖母さんになるまで挑み続けてみては? 得意ですよね? 納得するまでとことん調べ、実験して、解明する事が香さんのアイデンティティなのですから」

「……それ実質、プロポーズとなりますが分かって言ってます? 私、興味を持った対象に並々ならぬ執着心を持ちます。多分それが人であってもです。課長が前の職場に戻りたいと言おうと認めない。私の側に居て、何処にも行かないで」

 約束して欲しいから課長の鼻先へ小指を差し出す。

「好きです、課長。あなたを好きになりました。責任とって下さい」

 言わなくても分かっているだろうが、言葉にしておく。

「文言は取れました。早急にこちらの指に似合う指輪を作りましょう」

 小指を絡めつつ、課長は薬指に誓いを立てる。

「課長って婚約指輪を身につけるんです?」

「身につけるだけじゃなく、見せびらかしますよ。あなたが私を選んでくれた喜びで社内をスキップして回りたいくらい」

「ぷっ、課長のスキップ? 想像できない。でも見てみたいかも」

「あなたが望むなら幾らでも、たっぷりとご覧にいれますよ」

 あぁ、これは再戦の流れに乗ってしまった。キスを受け止めつつ、身を委ねる。


 ーー私達の夜明けはまだまだ遠い。