「……残念ですけど、私が欲しかった物の大半は手にしてしまいました。それも今日一日で」

 課長のお陰で、言外に込め微笑む。課長が居なければ家族と和解が出来なかったし、仕事と向き合うのを躊躇った。勘違いしたまま、されたままの日々を過ごしていただろう。

「それは困りましたね、あなたには地位も財産もある訳で。我儘を言ってくれないと叶えてあげられない、私を困らせて振り回して欲しいです」

「ふふ、似合わない台詞。そんなに私で頭を一杯にしたい?」

「今も充分に香さんの事で一杯ですが、もっと、もっと知りたい。私しか知らない顔を探したいのでドレスを脱がすだけでなく、抱いてもいいですか?」

「課長は林檎を剥いたら食べないの?」

 私の例えに一旦間を置き、普段しないであろう舌舐めずりをした。こんな風に興奮する課長をこれから私だけが見ていたい、他の人に見せたくない。

「食べますとも。残さず、全てを」

 後は熱に溺れるだけ。押し倒されて見上げる視界は課長しか映らない。

 好きです。
 好きです、課長。




「はい、水です。飲めますか?」

「起き上がれない、飲ませてーーんっ」

 口移しで水分補給をするのは明け方。帰ってきたのは確かに十九時過ぎだったから……頭の中で時計の針をクルクル回し、息をつく。

「課長ってばお若い」

 喉が痛くて文句を長く言えない。

「ありがとうございます」

 いやいや褒めてないし、睨むと笑顔で返されてしまう。しかも飽きずにキスを降らせてきた。

「んっん、だ、駄目ですってば、もう」

「あなたは泣き言を言い始めてからが可愛い。私を好きだ、好きだと泣いて喘ぐ姿は最高でしたよ?」

「そんな事を言ってません!」

 いや、実は言ったのだけど。なんなら感極まり叫んでしまったかも。
 濃厚な課長とのめくるめく記憶を再生し、頬が熱くなる。

「おや、私の聞き間違えでしょうかね? ならば改めて確かめなくては」

 再び臨戦態勢に入ろうとする課長を慌てて止めた。

「いやいや、私の勘違いでした! 言いました、はい言いましたとも」