花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?



 メイン会場へ戻ると父の挨拶が始まっていた。食事は一旦下げられ、中央にステージが設けられる。

「もっと近くで聞かなくていいんですか?」

 望めば関係者席につけるが、首を振っておく。
 宮田工業の軌跡と今後の展望を語る父は機械イジリが好きな少年の顔に戻っており、何だか眩しくて。この距離感でないと見届けられない。

『妻を早くに亡くし、長男と長女には寂しい思いを沢山させました。奇しくもその時期に会社は飛躍的な発展をしましてーー』

 話題が家族に触れ、少年から父親の表情となる。
 母が居ないのは寂しいが、愛情は母親の分まできちんと注がれていたと思う。運動会や学習発表会などの学校行事は足を運び、フィガロの結婚が上手に弾けると知ればグランドピアノを買い与える。

 愛情の示し方がお金を使った方法に偏りがちだけど、父は兄妹の長所を見付け、伸ばそうときた。

『こちらに居ります長男は次期社長とし』

 経営学を学び、父の片腕とし宮田工業を支えてきた兄。

『長女も宮田工業の一社員となり、この厳しい経済情勢を乗り切っていこうではないかと』

 やはり私に対しては言葉を選ぶか。誇れる兄に比べ、私はいつまでも子供のままで。
 膝の上で拳を握った。と、課長がそれを優しく解く。

「親不孝、もうやめたいんです。実家とも仲良くやらなきゃって分かってる」

 ぐす、鼻を鳴らすと肩を抱き寄せられる。課長はお小言やアドバイスも言わず、黙って胸を貸す。
 それだけじゃ物足りなくなり擦り寄れば、髪を撫でてくれた。

 スピーチは滞り無く行われ、今後は自分の時間を作っていきたいとの旨で結ぶ。私も父のセカンドライフが充実したものであるよう願う。

 盛大な拍手が贈られる中、兄へマイクが渡り、若き社長の登壇に羨望の眼差しが集中する。

「さて、皆様。今日は妹の香も来ておりますのでご紹介させて頂きます。花森課長、彼女をここへ連れてきてくれないかい?」