花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

 嫌悪で折れ曲がったそれを回収し、ふむと顎に手をやり唸る。

「はん! どうだ?」

 社会的地位を盾に、いかにもな威張り方をする。けれど残念ながら二人が萎縮するはずないのだ。

「あっ、それじゃオレの名刺もどうぞ。花森も交換しないのはマナー違反だ。お渡ししろ」

 今時、新入社員でもしない丁寧な名刺交換の所作が披露された。花森課長も後に続く。
 私は酔っ払いの目が覚めるリアクションに身構える。笑ってしまわないように。

「えぇー! み、み、み、宮田工業の課長とヒロインカンパニーの経理部長?」

 数十秒後、可哀想なくらい声が裏返り、赤ら顔は青ざめた。

「宮田工業は言わずもがな。ヒロインカンパニーは世界的シューズメーカーのヒロインシューズの子会社、お前の会社のお得意様だろうが?」

「追加情報として花森は部長昇進が内定しているよ」

「部長だと? その若さで? 宮田のお嬢様と政略結婚って事実なのか……」

 後ずさりし始め、壁にぶつかり尻もちをつく。何もそこまで怯えなくてもと言いかけ、言葉を飲む。

 課長が本気で怒っていたのだ。

「訂正しろ、政略結婚じゃない。香さんには私が説明する義務があるし、理解して貰う努力は惜しまないが、外野がとやかく言う筋合いはないからな」

 男の胸ぐらを掴み、立ち上がらせる。まるで恋心を踏みにじられた青年みたい、怒気で真っ直ぐ貫く。

「この人はねぇ、オレが貰ってきた宮田工業の社内報を偶然読んで、香ちゃんに一目惚れしちゃったの。信じられる?」

 花森課長の発言で足らない部分を補足し、私へ投げ掛けた。的確なフォローは同僚だった時の連携を連想させる。

 課長も否定せず、抱き締める力を強めてきた。

「紙面を見て惚れたなどと告げても気味悪がられるか、バックボーンに惹かれたんだと誤解される。結果、現在に至ります。信じてくれますか?」

 信じるのか、課長にも問われ俯く。

「……い、いや、そ、その」

 騒ぎがどんどん大きくなり、野次馬が集まっている。
 ひとまず課長を剥がすと呼吸を整えよう。